お店の中限定のアイドルから、ステージに立つ地下アイドルへ……抜け出せない世界でもがき続けるアイドルの現実

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　そんな折、追い打ちをかけるように店が潰れました。原因は、店長が彼女のライブ活動に入れ込み過ぎたことです。もともと料金設定が高めだったことに加え、店長不在の間に女の子たちが人気を争って、客にきつい営業をかけていたのです。少数の太い客が逃げた店はあっという間に傾き、店を有名にするという当初の目標を失った店長は、彼女の元を去りました。そして、人気のない地下アイドルになった彼女だけが残ったのです。これからどうすればいいのか分からず、しかし後戻りはできない気がしていました。

　しばらくは変わらずアニメソングを歌っていましたが、これを機にシンガー路線に変更しようと、女性歌手のポップソングを歌ってみると、ヲタ芸を打てなくなった観客達は手持ち無沙汰になってしらけるばかりでした。彼女の活動も生活も、2年ほど、ものすごく手持ち無沙汰でした。

　もはや惰性で出演していたとあるライブで、彼女は作曲家を名乗る男と出会います。聞いてみると、音楽好きのサラリーマンで、趣味で作曲をしているが披露する場がないと話します。作曲家と呼んでいいものか微妙な人物でしたが、惰性で人前に立っている彼女にとって、目標がある人との出会いは、初心を思い返す新鮮な出来事でした。

　彼が作り出す楽曲は派手な曲調ではありませんでしたが、その雰囲気が彼女に合っているようでした。作詞も彼が手がけるので、彼女は歌うだけでしたが、何度も何度もライブで歌い込むうちに、アイドルとしての方向性が定まってきました。徐々に固定ファンも増えてきて、アドバイスや感想をもらうようになると、理想像こそないものの、初めて成長したいと思うようになりました。そのためにアニメソングのカバーを止めました。しかし、作曲家の男性は本業が忙しいので作曲ペースが遅く、カバーを止めた時点で彼女のオリジナル楽曲はふたつしかありませんでした。地下アイドルのライブは出演時間が短いので、MCを長めにして、なんとかステージをこなすようになりました。ファンも2曲を盛り上げることに全力を挙げました。彼女もファンも必死でした。アニメソングを歌わなくなったことや、いろんなライブに出演するようになったことで、離れていくファンも多かったですが、熱心なファンに支えられて、彼女の活動は続きました。

　そんなある日、作曲家から脱サラを告げられました。作曲業に専念すると言います。彼女の楽曲を聴いた関係者から、仕事の依頼が来ているようですが、それでも本業の給料を越えるとは思えません。彼女は後戻りできないところまで来てしまったと思いました。しかし、昔、感じたのとは違う感覚でした。それからは徐々に楽曲を増やして、歌い込んで、しゃべれるようになって、ファンも増えて……。嵐のように目まぐるしい日々でした。

　彼女の楽曲はアルバムとして1枚にまとまって、全国のCDショップに並びました。オリコンにチャートインもしました。ただし、CDを全国流通しても、オリコンにチャートインしても、地下から抜け出せる時代でないことは、彼女も私も知っています。地下アイドルになっていなかったら、今頃どこかで違和感を覚えながら生活していたかもしれないことも。ただ、「あの日の秋葉原が、すごく遠く感じるんです」と彼女は言いました。

★姫乃たまの「耳の痛い話」では、読者の皆さん（地下アイドルの皆様、運営スタッフの方々、アイドルファンの方々）からのお悩みを募集します！　姫乃たまがインタビューをさせていただき、当連載にてご紹介させてください。

●姫乃たま
1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。地下アイドル／ライター。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで開始した地下アイドルを経て、ライター業を開始。アイドルとアダルトを中心に、幅広い分野を手掛ける。以降、地下アイドルとしてのライブ活動を中心に、文章を書きながら、モデル、DJ、司会などを30点くらいでこなす。ゆるく、ながく、推されることを望んでいる。

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