『さびしがりやのロリフェラトゥ』“ライトノベル”を裏切るアンハッピーエンドを示唆!?

「ガガガ文庫」の『さびしがりやのロリフェラトゥ』(小学館)は、「MF文庫J」で刊行している『変態王子と笑わない猫。』(KADOKAWA メディアファクトリー)で人気となった作者・さがら総氏の新作です。

 タイトルを見た時、“吸血鬼”を意味する「ノスフェラトゥ」という言葉をちょっといじって「ロリフェラトゥ」となっていることはすぐに想像がつきます。おそらく高校生とかがロリな吸血鬼に出会って始まる物語なんだろうなぁ……と。裏表紙のあらすじを見ると、その予想は半分くらい当たりです。

ぼくらの学校には、世にも奇妙な吸血姫が住んでいる。悩める女子高生、常盤桃香は深夜の旧校舎で怪異と出会うが――


 あらすじに記された「ぼく」が、能ヶ谷風吹という名の男の子であることは、口絵を見れば、すぐにわかります。しかし、本作がこの男子を主人公に、吸血鬼が絡む事件を描いていく……という、すぐに想起されるラノベの文法を、あっという間にひっくり返してしまいます。

 物語の各章は、次のような章立てで構成されます。

「能ヶ谷風吹はかく語りき」

「常盤桃香と高貴なる不死者」

「シギショアラと恐るべきケダモノ」

「真光寺結は宇宙ロボットの夢を見る」

 各章ごとに章タイトルに含まれる人物の一人称で、物語が描かれます。しかも、最初の章「能ヶ谷風吹はかく語りき」は、わずか2ページ。プロローグともいえる、本章ではこう記されるのです。

けれども、たとえ真実が人の数だけ転がっていて、そのどれもがしっちゃかめっちゃかで塗りたくられることを免れえないとしても、ぼくは話しておかなければいけない。
……もういなくなってしまった彼女のために。

(中略)

みっつ。ぼくらは、ハッピーエンドを迎えるべきだった。


 こんなわずかな文章で、この作品が「明るくドタバタした世界」と真逆のものだというのがわかります。10代読者にも受け入れやすい平易な文章で、いきなり物語が重苦しいものと予感させます。

 でも、「そんな物語なんて読みたくない!」と、読者を躊躇させず、イラストレーター・黒星紅白氏のペンタッチの挿絵と相まって、「そこまでの物語って、いったいどんな物語なんだろう?」と、ページをめくらせます。
 
 次章「常盤桃香と高貴なる不死者」もまた驚き。この章は、高校2年生ながらラノベ作家としてデビュー、ところが続編を書くことができず、編集からも見放された彼女・常盤桃香の姿から始まります。文体もここだけ、ですます調。

そのようにして、わたしの短い作家人生は終わりを告げたのでした。


 ラノベに限らず、純文学から大衆文学、ルポルタージュまで、編集者が共通して使う言葉があります。「読者をびっくりさせなくちゃいけない」。冒頭で読者の予想や常識に土足で踏み込み、読者が混乱している中、物語の世界――作者自身が描きたいものを展開していく。この作品はそれを見事に成功させています!

 冒頭でアンハッピーエンドを想起させるという、ラノベの文法を破った挑戦。さがら氏は、決して“ラノベ作家”の枠にとどまる人物ではないと思いました。
(文/大居 候)

さびしがりやのロリフェラトゥ (ガガガ文庫)

さびしがりやのロリフェラトゥ (ガガガ文庫)

「ロリフェラトゥ」という単語の危なさ

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