『ひとつ海のパラスアテナ』 電撃小説大賞は、海洋冒険小説の面白さがわかる“ハード”なライトノベル!

1502_parasuatena.jpgひとつ海のパラスアテナ第1巻 (KADOKAWA アスキー・メディアワークス)

 第21回電撃小説大賞の大賞に選出された鳩見すた氏のライトノベル『ひとつ海のパラスアテナ』(KADOKAWA アスキー・メディアワークス)。ラノベでは、ついぞ見たことのなかった海洋冒険小説です。しかも百合要素満載で、読者を魅了する傑作なのです。

 四方を海に囲まれた日本ですが、海洋冒険小説は多くの読者にピンとくるものではないでしょう。海外作品では、セシル・スコット・フォレスターの『海の男 ホーンブロワー』シリーズやアリステア・マクリーンの『女王陛下のユリシーズ号』(共に早川書房)、日本ではノンフィクションである堀江謙一の『太平洋ひとりぼっち』(文藝春秋)が知られるところですが、メジャーなジャンルとはいえません。

 けれども! この『ひとつ海のパラスアテナ』一冊で、海洋冒険小説がいかに心が躍るジャンルであるかが、たちどころにわかります!

 物語の舞台は、“アフター”と呼ばれる、すべてが海になった近未来の地球。原因は定かではありませんが、すべての陸地は水没し、人類はゴミやら何やらが潮に流されて集まった浮島に生きています。高層ビルのてっぺんだけが露出した島もあるようですが、多くの人類が命をつなぐ場所は小さな浮島。文明は失われていて、人類は海に潜り“ビフォアー”の品々を拾い上げて利用しているような厳しい世界です。

 そんな世界では、さまざまなことが現代とは異なります。まず、特徴的なのは服装です。スカートは男性が着用するもので、女性はズボンというのがアフターの常識。ヒロインのアキは、男装……「セイラー服(セーラー服ではありません)」を着て、自分を男だと偽っている14歳のメッセンジャー。メッセンジャーとは、浮島から浮島へと荷を運ぶという仕事を担います。

 かたや、海賊という悪も存在します。かつて船で過ごしていた両親と共に海賊に囚われたアキは、父親の手によって自分だけが脱出。以来、ひとりぼっちでメッセンジャーを続けています。なんとも厳しい世界観! しかも、物語の冒頭でアキにはさらなる厳しい試練が降りかかります。無人の浮島に降り立った時に、両親から受け継いだ大事な船・パラス号が流されてしまったのです。

 こうして水も食料もほとんどない島での漂流記がはじまります。これが本気でハード! てっきり物語のマスコットキャラになるかと思っていたオウムガエル(オウムみたいに喋るカエル)のキーちゃんは「キーチャン、オイシー」という言葉を残して死に、アキはその肉と血をすすって命をつなぎます。

 生き延びたアキが出会ったのは、たまたま流されて通りがかったヨットに乗っていたフッカーの少女・タカです。フッカーとは、膝枕をしたり「寝物語」をする商売だそう。タカと共にようやく無人の浮島から脱出したアキは、船が動かない停滞海域を乗り越えるなどの試練をへて、新たな船・パラスアテナ号の船長として海に乗り出していきます。

 電撃文庫はライトノベルのレーベルだと思っていたのですが、本作での数々の冒険は“ライト”ではなく“ハード”。何しろ海には危険が多すぎます。海賊だけでなく、嵐が起これば沈没の恐怖と戦わなければなりません。おまけに、海には巨大なサメが泳いでいます。試練はひとつやふたつでは終わりません。いや、この世界で生き抜くことこそが試練なのです。

 物語は大賞応募作ということで一冊で完結していますが、読後、興奮を抑えることができず、すぐに続きを読みたくなります。そんな読者の心を予見していたのか、早くも第二巻が4月に刊行予定なんだとか。正直、海洋冒険小説で、こんなにワクワクしたのは中学生の時に読んだ『太平洋ひとりぼっち』以来です。そう、僕たちが読みたかったのは、こんなまっすぐな冒険だった!

 下は少年から、上は老人まで。再び誰もが冒険に乗り出したくなるであろう、ライトノベル史に残る作品だと賞讃してもいいと思っています。もちろん筆者も忘れていた冒険心に火がつきました! ずっと「行こう、行こう」と思って行っていなかったシルクロードの旅にでかけようと思います。
(文/大居 候)

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