Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第25回

リアルに“鬱フラグブレイカー”だった!『コブラ』に救われた職なし時代

 宇宙船タートル号を操る宇宙海賊コブラ。左腕には、精神エネルギーを放出するサイコガンを仕込んでいる。相棒はメタリックボディのレディ。

 ……と、とてもカッコいい主人公コブラだが、「ジャンプ」作品の主人公としてはそこそこのオッサンである。

 第1巻の第1話では、コブラは平凡なサラリーマンとして暮らすジョンソンとして登場する。海賊ギルドとの戦いに疲れきって、自らの記憶を封じ込んでしまったのだ。そして顔も、元のストレートな二枚目から、団子っ鼻の三枚目に整形してしまった。

 ブサイク男子から言わせてもらえれば「もったいないお化けが出るぞ!!」って話なのだが、キャラクター的には“三枚目”というのが、とても効いている。

 イメージするなら、『ルパン三世』のルパン三世や、『シティハンター』の冴羽りょうだろうか。ぱっと見は三枚目で、軽口ばかりたたく中年男だけど、心身ともにとても優れている。その落差に惹かれるのだ。

 そして言葉の言い回しがとてもハイセンス。これはもう男も女も濡れ濡れである。

 一時期、『鬱フラグブレイカー・コブラ』というのがネットではやったことがあった。鬱な展開になるマンガの落ちに、コブラが登場して、主人公を欝から救うというパロディーなのだが、これが本当に面白かった。単にマンガとマンガをつなげているだけなのに、本当にスッキリするのだ。これは、もともとコブラが、とても気持ちのよいキャラクターとして作られているからこそなせた、離れ業であろう。
 
 ちなみに、僕が『コブラ』で一番思い出す話は、「カゲロウ山登り」だ。黄金を積んだ飛行機が、雪原の山に墜落する。そこに金目的の連中が集まり、登山をする。ただその“山”は見える人間と、見えない人間がいて、山の存在を信じられない人間には、山は存在しないのだ。そしてひとり、またひとりと、脱落していってしまう。

 僕が東京でフリーランスの仕事をはじめた時、大学は九州だっため、足がかりになるような知り合いもおらず、とにかく手当たり次第に出版社に持ち込みをしていた。当然、なかなかデビューできなかった。編集者からは、罵倒されたり、嘲笑されたりすることも少なくはなく、22歳の僕は普通に傷ついた。

 そんな時、なぜかいつも「カゲロウ山登り」の話を思い出していた。デビューすらままならないのに、定期的に仕事をもらい、それで生活していく想像なんてとてもできなかった。でも、そんな未来を無理にでも信じないと、未来はなくなって、どこまでも落ちてしまう。

 その時のシチュエーションと「カゲロウ山登り」を、どこかで重ね合わせていたのだと思う。

 もしもあの時、思い出していたのが鬱展開なマンガだったら……そのまま引きずられて奈落に落ちていたかもしれない。しかし、僕が思い出したのは、宇宙海賊コブラだったのだ!! 

 コブラは「山の上に登り着くこと」、それだけを目的にカゲロウ山を踏破した。しかもコブラの目的は金ではなく、ラブだった!!

 上京してから10ヶ月後、僕もやっとこさデビューできて、その後今日まで20年なんとか食べてこられた。「それも、コブラのおかげだな」なんて、半ば本気で思っている。鬱ブレイカーコブラは、僕の心の闇も綺麗に消し飛ばしてくれたのだ。

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

COBRA vol.1

COBRA vol.1

コブラさまさま!

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