こんな店員がいるカフェはきっと楽しい! 妄想豊かな眼鏡男子がほほえましい『勤労クレシェンド』

150807_kinrou.jpg勤労クレシェンド』第1巻(小山愛子/小学館)

 主人公は、駅の中にあるカフェで働く眼鏡男子。そう書けば、世の中の三分の一くらいは嫌悪感を抱くのではなかろうか。なにをオシャレなところでバイトしているのか? サブカル野郎かよ? ……と。そんな気持ちをいつも抱いている筆者は、カフェという場所で働くヤツらのリア充感が我慢できず、いつもスタバやタリーズを避け、昔ながらの純粋な喫茶店を求めて彷徨っている。でも、マンガ『勤労クレシェンド』(小学館)の主人公・恵須野は、客にそうした嫌悪感を与えたりはしない。

 なぜなら、彼は一種気味悪がられているからだ。パッと見イケメンな文学的眼鏡男子の恵須野が気味悪がられる理由は、客に対する異常なサービス精神。冷え性の手で客に釣りを渡せば、客を驚かせてしまうのではないかと悩む。女子高生から「ボールペンを貸して」と言われれば、このボールペンで恋文をしたためるのだとしたら……と妄想し、自分の胸ポケットに入っているボールペンでは、せっかくの手紙に油汚れがついてしまうのではないか、と悩む。1万円にお釣りを出す時、もしも自分が5000円札と間違えて1000円札を渡してしまったら、客はずっと「あの5000円があったら……」と考え続けるだろう……と勝手な妄想で悩み、カウンターにお札を並べて確かめはじめる。
 
 カフェの中では、さまざまな仕事を完璧にこなす恵須野。その完璧さが、ときに客をドン引きさせてしまう。恵須野の仕事が完璧な理由は、彼が常にお客様を第一に考えているから。駅の中のカフェといえば、常に入れ替わり立ち替わり客の出入りがあって混雑した場所。それでも、一時の休息を求めて店のドアを開けるお客様のために恵須野はひたすら全力投球だ。

 お客様のため、という視点から見れば、客も驚く恵須野の数々の行為は納得できるような気がする。でも、その奉仕の精神が彼は突き抜けている。若い女性客に「ホットとアイスどっちがいいと思いますか?」と問われた恵須野は、妄想する。彼女の注文はテイクアウト。アイスであれば、電車内で水滴が男性にかかり、それをきっかけに恋が芽生えるかもしれない。ホットであれば、冷まそうとフーフーしていた時に男性と目が合って恋が芽生えるかもしれない……妄想の果てに彼がたどり着いた答えは「どちらでも幸せだと思います」。

 いかがだろう。お客さまのことを考えるばかりに、過剰でズレた思考をするのが恵須野の日常だ。でも笑いと共に、読者はほほえましさを感じるのではないだろうか。なにしろ現実世界のカフェは雑踏の中、客の出入りが多くて接客も慇懃無礼なもの。ちょっと値段の高めなオシャレなカフェだって、画一的ではない接客を受ける機会はそうそうない。もし現実に恵須野のようなキャラ立ちした接客を受けたとしたら、心の底から楽しさを感じるはずだ。

 マニュアルに則った接客が、どこでも当たり前のようになっている昨今、お客様のために、という思いが空回りしたとて、恵須野のような接客は人生を豊かにしてくれるはずだ。こんなギャグ展開で作品が描けるのも、作者が自分の中で理想的なカフェ像を持っているからではないかと、思った。
(文/是枝 了以) 

こんな店員がいるカフェはきっと楽しい! 妄想豊かな眼鏡男子がほほえましい『勤労クレシェンド』のページです。おたぽるは、マンガ&ラノベ作品レビューの最新ニュースをファンにいち早くお届けします。オタクに“なるほど”面白いおたぽる!

- -

人気記事ランキング

XLサイズ……
XLサイズって想像できないだけど!!