Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第24回

ハリウッド映画の「僕には撃てませーん」キャラとは大違い!絶対に撃つ男・風間真に魅せられた『エリア88』のロマン

 新谷かおるは松本零士のプロダクションでアシスタントを経験していたこともあり、作画や雰囲気がその影響を受けていることがわかる。松本零士にも、第二次世界大戦を舞台にした作品『戦場まんがシリーズ』があり、これまた戦場のロマンを「これでもか!!」と描いているので、未読の人はぜひ読んでもらいたい。

 新谷かおるのメカの描き方は、松本零士に似て、リアルでありながら艶っぽい。とても色っぽく戦闘機を描く作家だ。そして、主人公機がちょくちょく変わるのも、新鮮だった。「F-8E クルセイダー」から始まって、「F-5E タイガーII」、「サーブ 35 ドラケン」、「ノースロップ F-20 タイガーシャーク」……と変更していく。

 司馬遼太郎ならば「土方歳三の愛刀は和泉守兼定」という具合に、愛用の武器は固定してしまうところだが、戦場では(特に「エリア88」のような超最前線基地では)そんなに長持ちしない。黒澤明の『七人の侍』で菊千代が何本もの刀を地面に刺して、刀の切れ味が落ちるたびに刀を替えて戦うシーンのような、戦場ならではの武器の使い捨ては、むしろワクワクするのだ。だからこそ、真が次にどんな新しい戦闘機に搭乗するのか、それも楽しみのひとつだった。

 当初は、かなりやさぐれてひとり戦う真だったが、徐々に仲間も増えていく。

「エリア88」の司令官、サキ・ヴァシュタール。ベトナム戦争のパイロットだったが、戦後平和な社会に馴染めず傭兵に志願したミッキー・サイモン。デブでチビでジジイだが腕利きのグレッグ・ゲイツ……などなどだ。

 戦争モノでは「キャラクターたちがいかに舞台から下りるか」も、楽しみのひとつである。はっきり書くなら“死に様”である。ネタバレになるので詳しくは書かないが、それぞれなかなか泣かせる逝き方をするのでぜひ楽しみに読んで欲しい。

 最後に、『エリア88』と言えば、随所で読まれるポエムにも触れておきたい。

 例えば、第一話『うらぎりの大空』ではこんな感じだ。

『ここは中東(ミドル・イースト)…
作戦地区名
エリア88…
最前線中の最前線!!
地獄の激戦区
エリア88!!
生きて滑走路を踏める運は
すべてアラーの
神まかせ!!
おれたちゃ、神さまと
手をきって、
地獄の悪魔の
手をとった…
命知らずの外人部隊(エトランジェ)!!』

 これが、えらくかっこよかった。ちょっと臭すぎる演出とも言えるが、男にはこれくらい濃いロマンを味わいたい時もあるのだ。今読んでも、「やっぱいいぜ~エリパチ(当時こう読んでた)節は~」と思った。

 正直な感想を言うと、後半戦の仲間たちが一致団結して「エリア88」のためにがんばるようになるエピソードより、前半戦の仲間意識の薄い、生き抜くためにギラギラとした外人部隊の話のほうが好みだった。

 僕が一番好きな話は、かなり前半戦の第三話『はてなき砂丘』だ。敵に撃墜されて砂漠のど真ん中に墜落する真。フラッシュバックのように、親友に裏切られた日を思い出す。泥酔した時に「外泊証明書を書け」と言われてサインをしたが最後、『アスラン王国外人部隊』に編入された日。「真相を知るために生きて帰る」。その思いのみで砂漠を歩いたが、気力もつきて倒れる。もうここで死のうと思った時、右手がコンクリートに触れる。

 そう、奇跡的に「エリア88」にたどり着いたのだ。とぼとぼと基地の光の方向に歩いて行く真……。
 
 僕はこの話を読んで、一気に『エリア88』の物語に引きつけられた。みなさんも是非、この作品を読んで戦場のロマンを味わって欲しい。

●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/

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