地下アイドルビジネスの実態・・・「月給7925円」

 そんな状態だからメンバーの内の一人はガールズバーでバイトをし、遅刻を繰り返す。もう一人も同様。やる気の感じられない二人はとある学園祭では物販にも立たず、ナンパされた男からもらったパンを「お財布ないって言ったらくれたの」とケータイ片手に地べたに座りながら食べ、さも忙しそうに「イッキ食いしてる」と言い訳をする。はり倒したくなる言動だが、こんな彼女たちにファンが付くはずもない。50万という地下アイドルとしては破格の予算が組まれたfortuneだが、あっけなく解散。その事実を知って号泣する彼女たちだが、泉谷しげるは冷たく「また一つアイドルグループが消えていく」と言い放つ。

 しかし、ひなささゆりの場合はグループにさえ入れない。ライブの盛り上げ役として会場から見ていた彼女は、その最中にサプライズとして新メンバーが加わったことを知らされる。もう自分が入る余地はない。アイドルは10代で芽が出なければ可能性はないと言える。

 目の前で突きつけられた現実に、またも彼女は過呼吸になる。事務所の社長は慣れたもので、余裕で彼女を抱え、運ぶ。そして後日、陰に引退を勧めるが、ひなたはそれを拒否。

「人を楽しませたい」と語る彼女に対し、スタッフは「別にアイドルじゃなくても」と言い返す。長く取材を重ねていろんな面を見て来たのだろう。僕には「もう十分じゃないか」という風にも聞こえた。しかしひなたは「私はアイドルがいい」と微笑み、言い切る。金のない彼女はコンビニから貰ったおでんの汁をすすり、美味しそうに飲み干す。

 これはもはや宗教だ。信じるものに対し、疑いがない。そして彼女にとって失敗は罪なのだ。

 だからほかに選択肢がない。光熱費が払えない金額でも、自分はアイドルなんだと信じている。きっと彼女は「夢は追うもの」という信念があるに違いない。さらに「叶うもの」と付け加えられるのだろう。しかし、現実は給料明細が教えてくれる。数字は具体だ。残酷ではあるが、結果も教えてくれる。そこから得る物は大きいはずなのに、彼女はまだそこに目を向けない。

 しかし、不思議なことにひなたは確かにアイドルだった。おでんの汁を「温かい」と言って大切そうに飲む姿は美しかったから。真麗奈も解散ライブ後に「次のオーディションがある」と言って渋谷の町を走る姿は素敵だった。 その姿が誰かの勇気になったことは間違いない。
(文=松江哲明/映画監督 2012.10.21BJ既出)

松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。

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