ゆるめるモ!に加入した理由は「演技がしたかったから」――映画初主演・櫻木百に聞く“アイドル”と“女優”

 10月29日から東京・渋谷のユーロスペースで公開される映画『うつろいの標本箱』は、シンガーソングライターの黒木渚が2014年にリリースしたアルバム『標本箱』をモチーフにした男女15人の恋愛をめぐる群像劇。脚本と監督は長編第一作『くじらのまち』がベルリン国際映画祭など世界10カ国以上で公開され、続く『過ぐる日のやまねこ』がマラケシュ映画祭で審査員賞を受賞するなど、次世代の日本映画を担うと目される新進気鋭の鶴岡慧子監督。

1610_s_mone_01.jpg櫻木百

 そして本作の主演に抜擢されたのは、元ゆるめるモ!で、現在は一花寿(ひとはな・すい)の名前でHauptharmonieの一員として活躍するアイドルの櫻木百(さくらぎ・もね)。劇中で多感な女子大生をナチュラルに演じた彼女に、撮影裏話からアイドル活動のことまでお話をうかがった。

■ゆるめるモ!に加入した理由は「演技がしたかったから」

――櫻木さんは以前、子役をやっていたそうですけど、いくつの時にやっていたのですか?

櫻木百(以下、櫻木) 5、6歳ぐらいの時に、お母さんから「劇団に入らない?」って言われて始めたんですけど、けっこう私がおてんばだったんですね。家でうるさいから、どこかでエネルギーを発散すれば大人しくなるんじゃないかということで劇団に入れたんです(笑)。あと、お母さんがミーハーだったので、やらせたかったのもあったみたいです。

――当時はどんな仕事をしていたんですか?

櫻木 ドラマに子役として出演していました。あとバラエティに出演したことがあって、その時は「あの子だ!」って感じで近所でも話題になりましたね。

――大人と接することに物怖じしなかったんですか?

櫻木 まったく人見知りをしなかったので大丈夫でしたね。ただ、妹が生まれてお母さんがオーディションの付き添いに来られなくなったので、劇団は1年で辞めました。

――辞めた後も女優をやりたい気持ちはあったんですか?

櫻木 親の影響で日常的にドラマや映画を観ていたんですけど、小学生の時にハマったのがモーニング娘。さんだったんです。そこからはアイドルが好きになりました。ただ中学生になって、友達と映画を観に行くようになると、普段から映画のことを考えるようになって。また、そういう仕事をやりたいなと思うようになりましたね。

――どういう系統の映画が好きだったんですか?

櫻木 邦画が多かったです。年上の女優さんに憧れることが多くて、その女優さんが出演する映画はすべて観るみたいな。特に竹内結子さんや菅野美穂さん、蒼井優さんなどナチュラルな雰囲気の女優さんが好きでしたね。映画で言うと竹内結子さん主演の『いま、会いにゆきます』が好き過ぎて、映画館に5、6回観に行きました。観るたびにボロボロ泣いて、1本の映画でこんなに人を感動させられるんだ、こういう仕事をしてみたいと思うようになりました。それで中学生の時に自分の意志で事務所に所属したんですけど、そこでは演技レッスンを受けながら再現VTRなどに出ていました。高校生の時も違う事務所に所属していたんですけど、当時は演技よりも部活に打ち込んでいたのもあって、あんまりお仕事はしていなかったですね。

――女優志望の同世代の女の子ってギラギラしていたんじゃないですか?

櫻木 そうなんですよ。オーディションに行っても全員がライバルで、そういう場に行くと私も負けず嫌いを発揮して、「やってやるぞ!」って気分になりましたね。

――オーディションで積極的に自己アピールはできていたんですか?

櫻木 やればできました。ただ今は分からないんですけど、当時は中学生の子たちって型にハマりやすかったんですよ。演技もそうなんですけど、自己紹介でも皆が同じくハキハキして個性がないんですよね。それが、だんだん嫌になってきて、私は大人しくしてようみたいな、周りと違いを出すようにはしていました。そういう特有な雰囲気が嫌で馴染めなくて、事務所を辞めたのもありますね。

――周囲にも将来的に女優になりたいと言っていたんですか?

櫻木 家族には言っていましたね。お母さんが近所に何でも話す人で、全然知らないおばちゃんから「今度あれに出るんでしょう?」みたいな感じで話しかけられるんですよ(笑)。

――ゆるめるモ!にはスカウトがキッカケで加入したそうですが、その時も女優をやりたいって気持ちはあったんですか。

櫻木 ありました。そもそも加入を決めた一番の理由は演技をやりたかったからです。スカウトを受けた時に「アイドルに興味ありますか?」と聞かれて、女優になりたいんですと答えたら、「アイドル活動は将来のプラスになるし、いろんな道が開けるから」と言われたんです。

――当時は事務所に所属していなかったんですか?

櫻木 それまで所属していた事務所を辞めたばかりのタイミングで、もう女優も諦めようかなと思っていた時期でしたね。

――それまでアイドルになろうって考えたことはなかったんですか?

櫻木 モーニング娘。さんにハマっていた頃はチャンスがあればやりたいと思っていたんですけど、アイドルのなりかたもわからなかったので頭になかったですね。

――そんな状態で、いきなりアイドルグループに加入して戸惑いはなかったんですか?

櫻木 もともと歌って踊るのは好きだったのでライブすること自体に抵抗はなかったんですけど、物販には抵抗がありました。ファンとの距離が近い! みたいな(笑)。その分、ファンの人が私たちを覚えてくれるのも早かったし、すぐに仲良くなれたのもあって、そういう文化に溶け込むのは早かったですね。

――常に頭の中には女優をやりたいって気持ちがあったんですか?

櫻木 その気持ちがあったから頑張れたのもあります。アイドルってずっとできるお仕事ではないじゃないですか。最終的には女優でという考え方でやっていました。

――途中で何人かメンバーも卒業していきましたが、そこで自分も辞めようと考えたことはなかったんですか?

櫻木 緑担当のゆみこーんってメンバーがいたんですけど、初期メンバーで仲が良かったんですよ。すごくしっかりしていて、グループをまとめてくれる存在でもあって。でも一時休養して、その時期が長かったんですけど、戻ってくると思って活動を続けていたんです。ところが結果的には卒業になって、いなくなるプレッシャーがすごくて、自分が辞めるとは思わなかったんですけど、その時はグループの将来が不安になりましたね。

■山田イツキは「素直に気持ちを表現せずに、回りくどい言い方をするところが私らしい」

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――『うつろいの標本箱』の撮影は2014年とのことですが、どういう経緯で主演が決まったんですか?

櫻木 ずっと女優活動をしたいと運営の方に言っていたので、ちょうど良いタイミングで「こういう話があるけどやってみない?」とお話をいただいたんです。

――映画の話が決まって、鶴岡監督との面接があったそうですが、どんな第一印象でしたか。

櫻木 そこまで年齢が離れていないので、まず若いなというのと、監督さんってめっちゃ怖くてガンガン言ってくるイメージだったんですけど、鶴岡監督はそのイメージと真逆な方でした。会った瞬間からにこやかで、すぐに緊張が解けて、リラックスして話すことができたのを覚えています。

――撮影に入る前に、オーディションで決まったキャストの方と5日間のワークショップがあったそうですが、それまでワークショップの経験はあったんですか?

櫻木 事務所に所属していない時期に、気になる監督さんのワークショップを二度ほど受けたことはありました。ただ今回の映画のワークショップは、一般的なワークショップと雰囲気が違いましたね。前に受けたワークショップはオーディションで参加が決まって、将来や次の仕事につながるかもしれないと思って来る役者さんばかりなのでギラギラしていて、ライバル心が剥き出しなんですよ。でも今回のワークショップは『うつろいの標本箱』に向けてのワークショップだったので、和やかな雰囲気で良かったです。そんなに私はすーっと人の輪に入っていけるタイプではないんですけど、すごくやりやすかったのが良い結果につながったのかなと思います。

――ワークショップの時点で脚本は完成していたんですか?

櫻木 そのワークショップで、いろいろな組み合わせやシチュエーションでエチュード(即興)を繰り返して、それを鶴岡監督が見ながら並行して脚本を作り上げていったんです。

――エチュードで苦労した点はありますか?

櫻木 エチュード自体は苦手じゃないんですけど、自分よりも年の離れた役だったり、今まで経験のない恋愛シーンだったりのエチュードは、どうやっていいかわからず難しかったですね。

――完成した脚本を初めて読んで、自分が演じる山田イツキにどんな印象を持ちましたか?

櫻木 エチュードでやったシーンも入っていたし、「やっぱり私だ」って思うような役柄でしたね。セリフの言い回しもそうなんですけど、素直に気持ちを表現せずに、回りくどい言い方をするところが私らしいかなと(笑)。感情をストレートに出すのが苦手なんですよ。オブラートに包んで言ったりとか、本当はこう思っているけど、こう言っておいて相手の動きを見てから本心を言ったりとか、そういうところは似ていますね。

――苦労したシーンはどこですか?

櫻木 告白のシーンですね。人生で告白した経験がないので、普通はどうやって告白するんだろうと(笑)。あとフラれた人は、どういう顔をするんだろうとか。幾つか恋愛ドラマも観たんですけど、一番参考になったのは昔やっていたバラエティ番組の『学校へ行こう!』の1コーナーで。学校の屋上から告白してフラれた子の表情が参考になりました(笑)。

――演技じゃなくて素ですから生々しいですよね(笑)。鶴岡監督は体の動きなども細かく指示するんですか?

櫻木 細かい指示はなくて、たとえば私と女性の家庭教師が歩くシーンがあるんですけど、ほとんどフリーの演技でした。

――作中、黒木渚さんの「テーマ」という曲を、百さんがアカペラで歌うシーンが冒頭にありますが、どんな気持ちで演じていましたか?

櫻木 花火をしながらノリノリで歌うんですけど、黒木さんの曲は音程が難しいから、アカペラで歌うのは自分的に苦労して。しかも夜で寒かったので声も出ないし、私にとって一番の“恥ずかしポイント”です(笑)。あのシーンだけ耳栓をして観てほしいぐらい……。初めて試写会で観た時は冷汗が止まらなかったです。一番後ろで観ていたんですけど、私の映るシーンで観ている方の反応を見たくなくて、座席に目を向けないようにしました。2回目に試写会で観た時は、もうちょっと冷静に見ることができたんですけどね。

■「Hauptharmonieでの活動は新しい自分の発見になりそう」

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――アイドル活動についてもお話をうかがいたいのですが、ゆるめるモ!を卒業した理由は何だったんですか?

櫻木 ある時期からロック色の強い曲が増えたじゃないですか。私はアイドルと言えば、すごく可愛い曲か、すごくカッコ良い曲かのどちらかという気持ちが強かったので、グループの方向性と違ってきちゃったんですよね。パフォーマンス面でも、ハロプロさんが好きなので、衣装が可愛くてパフォーマンスは揃ってみたいな、わかりやすいものだと入りこめるんです。でも振りが決まっていないとか、自由なものには入りこめないというのもあったんですよね。私は振付を担当していたんですけど、その曲から得たインスピレーションを振付に反映させていて、1曲を物語として捉えることが多かったんです。ただ、その場を楽しむというのが苦手で、楽しい中にも意味がないと集中できないんです。

――確かに最近のゆるめるモ!は、メンバーそれぞれが自由に動いていることが多いですからね。

櫻木 このメンバーはこういうことをやっている、こっちのメンバーはこういうことをやっている、じゃあ私は? ってなっちゃうんですよね。練習したものを見せるのが表現と自分の中では思っていて、その場で作る表現方法もありますけど、それは私に向いていないなって。

――10月26日にHauptharmonieに加入することを発表したばかりですが、どういう経緯で加入することになったんですか?

櫻木 卒業が決まったのが今年の2月ぐらいで、7月に卒業するまでの間、今後何をしようか考えていて、私の中では女優一本でやるという選択肢はなかったんですよ。演技だけでやっていくのは潔いと思うんですけど、現実的に考えると顔が売れていないと仕事はこないですからね。そうやって悩んでいた時に、私たちのライブにHauptharmonieの芹奈莉温ちゃんが一ファンとして遊びに来てくれたんですよ。そろそろ私が卒業するというのを知って、チェキも撮りに来てくれたんですよね。そしたらチェキを撮る時に莉温ちゃんから「胸倉を掴んでください」と言われて(笑)。すごく面白い子がいるなと思っていたら、ほかのファンの方から「あの子はHauptharmonieのメンバーだよ」と教えてもらったんです。

――その時点ではHauptharmonieのメンバーって知らなかったんですね。

櫻木 そうなんです。その時は、それで終わったんですけど、後日たまたまYouTubeでHauptharmonieの「パラレルワープ」を聴いて、こんなに良い曲を歌っているグループがいるんだってビックリしたんですよ。曲だけじゃなく歌詞も自分に響くものがあって、特にサビの部分で救われた気持ちになったんです。それで、あの子がいるグループだと思って気になってライブに行ったんです。そしたら、その日のツイートで「新メンバー募集」と書いてあって、これは面白そうだと思って連絡したのがキッカケで加入することになりました。

――楽曲の良さが加入の大きな理由だったんですね。

櫻木 大きかったですね。2ndアルバムを聴いたら捨て曲がまったくなくて、今まで「このアイドルの曲は全部好き」って経験がなかったから、Hauptharmonieはすごいなと。あと私の好きな可愛い路線とは少し違うんですけど、森ガールみたいな佇まいも私に合いそうかなというのもありました。

――実際にHauptharmonieの曲をパフォーマンスしてみていかがですか?

櫻木 英語の歌詞が多くて、音程や歌回しも難しいんですけど、それが今までにない経験なのでやりがいがあります。1曲、振付を担当させていただいたのもうれしかったし、Hauptharmonieでの活動は新しい自分の発見になりそうです。
(取材・文=猪口貴裕/写真=石川真魚)

■『うつろいの標本箱』
2016年10月29日からユーロスペース(東京・渋谷)でレイトショー公開

監督:鶴岡慧子
出演:櫻木百、小川ゲン、赤染萌、小出浩祐、橋本致里、佐藤岳人、illy、佐藤開、岡明子、伊藤公一、大森勇一、森田祐吏、小久保由梨、今村雪乃、渡辺拓真
製作・配給:株式会社タイムフライズ
エンディングテーマ:「テーマ」黒木渚(ラストラム・ミュージックエンタテインメント)
2015年/日本/DCP/95分/カラー
【公式ホームページ】http://hyohonbako.com/

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