関釜フェリーの知られざる魅力 日韓関係の悪化で乗客は減っても客が濃い

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関釜フェリー株式会社公式サイトより

 チョー・ヨンピルの『釜山港へ帰れ』が似合う関釜フェリーは、下関と釜山の間を毎日、一便ずつ結んでいる。

 昨年あたりまでは、韓国からやってくる団体観光客で混雑していたが、国際関係の悪化によって九州のあちこちで目にした韓国人の団体観光客はすっかり姿を消した。

 おかげで、賑わっていた関釜フェリーもぐっと寂しさを増している。貨物輸送があるために減便することもなく運行されている関釜フェリーだが、さすがに危機感はあるのか11月末まで半額セールも実施。加えてインターネット予約を導入し一ヶ月前までに申し込めばいつでも半額運賃が固定化した。

 様々な諸費用も取られるので増減はあるけれど、おおむね最低6000円台後半で対岸へと運んでもらえる。どこのビジネスホテルでも一泊すればそれくらいは取られるはず。寝ている間に運んでくれて、この料金ならばやっぱり安い。

 さて、旅行シーズンならいざしらず、週末とはいえ11月上旬の関釜フェリーに乗るのはたいていはなにか用がある人。下関の国際フェリーターミナルのドアをくぐると、旅行者然としているのは筆者くらいのものであった。

 ここはすでにハングルが飛び交う外国。慣れているらしき韓国人たちは長椅子に段ボールを敷いてベッドのようにして寛いでいる。ほかの乗船客たちもみんな慣れた風である。どこからも日本語は聞こえない。乗船時間になり、行列からしきりにお墓の世話を話しているおばさん二人組の声がしたので、そちらのほうを観てみるがパスポートの色は赤ではなかった。

 かつては、適当に放り込まれたという関釜フェリーの二等船室だが、今はなにかと気を使っている。まず男女別。それから、日本人と韓国人も別室。いや、以前は性別だけで国籍は混在だったと思うのだが、どうせ乗客も少ないなら国籍で分けてしまえということなのか。

 そのためか、筆者に指示された船室は誰もいなかった。このまま、大部屋で一人かと思いきや出発時間近くになって「こんばんは〜」と入ってきたのは杖をついてる日本人の老人だった。

 こうした船内なので、とりあえずは言葉を交わす。金属製の杖をついている、この老人。広島から来たそうなので仮に広島さんとしておこう。足は悪いが77歳になった今も一人旅を楽しんでいるという。

「同年代も誘うんだけどさあ、来ないんだよあいつら。家から出ることを渋っちゃって」

 77歳になって足も引きずっているのに旅行に出るほど精力が有り余っているだけあって、広島さんは聞いてもないのに語り続ける。なんでも、足が悪くなってからは施設管理の宿直のバイトをしているそうで、今日も夜勤明けで来たという。そして仕切りに「4時間しか寝てない」ことを強調するのである。

 とにかく、まだ現役で仕事をしていること。さらに睡眠時間が少ないことは広島さんにとっての誇りらしい。

 そうした仕事の合間にあちこちに出掛けているという広島さん。釜山には何度も通っており、今回も現地で一泊予定だという。

「私くらいになるとですねえ。ホテルは取らずにサウナですよ。ホテルより安くつきますし」

 と、持ち込んだコンビニ弁当をつつきながら広島さんはいうのだ。

「へえ〜、そんなに旅行していたらいろんな体験もあったんじゃないですか。危険なこととかも」

と、話を振る筆者。

「危険なことねえ。韓国は大丈夫だけど去年、大阪で野宿した時は危険だったねえ。そう、大阪駅の前で寝てたんだが、あそこは危ない街だと思った……」

「大阪ですか! それで朝まで大丈夫だったんですか?」

「もちろん!ほら、いざとなったら私は武器があるから。ほら、この杖……これで、こう突くんだよ」

 そう『るろうに剣心』に出てきた誰かみたいなポーズを取り始める広島さん。調子づいたのか、最近自転車の前カゴにスマホを入れっぱなしにしていたら盗まれたことなどプライベートな事件簿は延々と続いたのである……。

 翌朝、下船の時に広島さんは「では!」と颯爽と出ていった。プラプラと入国審査を通ってATMでお金を下ろしていると、ふと後ろで声が。

「……最近、スマホを盗まれましてね」

 広島さんはいきづりのおばさんと並んで歩きながら話していた。あれは、鉄板ネタなのだろうか……。
(文=昼間 たかし)

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