あっけらかんと全裸と“リア充”を描いた女性マンガ家・岡崎京子 開催中の原画展に見る、“サブカル”で語られる前の彼女

2015.03.19

 そんなファンは各界にたくさんいたようだ。この岡崎京子初の大規模原画展は、文学館スタッフの熱意により実現したもの。2年も前から、綿密な打ち合わせを経て、ようやく岡崎さんゆかりの地である世田谷で開催に漕ぎつけた。年譜、プロローグ、そして、SCENE 1「東京ガールズ、ブラボー!!」、SCENE 2「愛と資本主義」、SCENE 3「平坦な戦場」、SCENE 4「女のケモノ道」と、時代に沿うようにして練り上げた4幕構成のテーマ展示ひとつひとつから、スタッフのこだわりが伝わってくる。点数にして、単行本未収録作を含む原画300点以上が展示されている。

「スクリーントーンの大胆なずらし方など、物としての存在感のある原画だと思います」と、世田谷文学館の庭山さん。「ゴダールの映画で挿入される字幕のような、独特の言葉の魅力も味わってほしい」

 その言葉どおり、壁や床、部屋そのもの全体を使った展示は「文学館」ならではの表現かもしれない。

『リバーズ・エッジ』に引用された黒丸尚訳のウィリアム・ギブスンの詩「THE BELOVED(Voices for THREE HEADS)」を印象的に使ったものなど、作品ごとの展示も圧巻だが、それに加えて、単行本に収録されていない連載当時の扉絵や「FEEL YOUNG」「ヤングロゼ」のカバーイラスト、「CREA」「ゴメス」に連載していたイラストエッセイの原画が嬉しかった。そうだ。オタクを含め、ほかの人とちょっと違うことを面白がる人たちにとって、岡崎京子はどの雑誌にも載っている作家だった。文学的だとか映像的だとか思う以前に、『リバーズ・エッジ』『ヘルタースケルター』は次が楽しみでたまらない連載マンガだった。「anan」のイラストエッセイは立ち読みでも最初に読むページだった。

 そのとても贅沢な時代が、あの事故の日に突然断ち切られてしまったことを今更ながら実感して、どうしようもなく切ない。

 そんな気持ちを救ってくれるのは、壁一面にプリントされた『ヘルタースケルター』の扉絵。この絵を生命力のシンボルとして見たのは初めてだった。

 3月末まで開催されているこの特別展、若い女性の来館も目立つという。個人的にはとても嬉しい。口コミで記録的な来館者数となっているとか。そして、恐らくもう一度足を運びたくなると思うので、観覧はとにかくお早めに。

 豪華なファンブックとも言える当原画展公式カタログ『岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ』(平凡社)は一般書店、Amazonでも発売されている。また、きちんと岡崎京子の仕事をまとめた『岡崎京子の仕事集』(増渕俊之・編/文藝春秋)も、観覧のお供としておすすめしておきたい。
(取材・文/さいとうよしこ)

■「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」
3月31日(火)まで。
世田谷文学館2階展示室 10:00~18:00 月曜休館
一般=800円、高校・大学生・65歳以上=600円、小・中学生=300円
その他割引はお問い合わせください。

主催:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷文学館
後援:世田谷区
助成:芸術文化振興基金

■世田谷文学館
〒157-0062東京都世田谷区南烏山1-10-10
03-5374-9111
http://www.setabun.or.jp/

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