“浸透と拡散”を続けるSF…『日本SF展・SFの国』で日本SFのオリジンに出会う

2014.08.29

 暑い日が続くが、9月28日まで東京都の世田谷文学館では『日本SF展・SFの国』が開催中だ。

 で、「SF展って何を展示するの?」と思った人、貴方は正しい。「SFとは?」という答えは21世紀になった今でも結論は出ていないし、かつて“浸透と拡散”と呼ばれたように、SFは小説からイラスト、映像、コミックといったさまざまなメディアに広がっている。ざっと思いついても、映画や、アニメ、特撮、ラノベ、ゲームにまで及んでいる。言わばSFとは、オタクにとっては空気のように意識しない、日常的に摂取しているもの……か。それをまとめるとなると、コミックマーケットのような広範なジャンルを内包することになるだろう。そんな有明でも三日間かかるものを、手のひらサイズで切り取ったのが、今回の『日本SF展・SFの国』。会場が世田谷“文学”館というだけあって、文学を中心に据えている。

「日本SF大学校」をテーマに、展示構成は「日本SF概論」「日本SF専門講義」「日本SF演習」と、順を追って日本SFの歴史をたどっていく形となっており、SF初心者にも親切なつくり。時代的に扱っているのは、日本SF創世記たる1950年代から70年代まで。70年の大阪で開催された万国博覧会あたりまでの「科学で彩られた輝かしい未来」を夢見た時代である。よもや未来で原発があんなことになったりするなんて、夢にも思わなかった21世紀のメタリックなビジュアルが、ちょっと寂しげにガラスの中にある。

会場で販売している豪華図録。このレトロ調がたまらない!

 それにしても、タダでさえうるさ型の多いSFで、しかも展示をやろうというのは勇気があるなぁと思ったが、同館の担当者によると、ここ世田谷文学館は2006年に『ウルトラマン展』、2010年に『星新一展』、2012年には『地上最大の手塚治虫展』(これもかなりぶち上げている!)などの開催実績があったため、その集大成としての『日本SF展・SFの国』なのだそうだ。

 来場者数も好調で、お父さん・お母さんが子どもを連れての二世代で来ることも多いとか。日本SF黎明期の思い出を我が子に語る、なんて光景が目に浮かぶ。すでにワークショップなどが多数開かれており、子どもたちのSF心をくすぐる仕掛けもいろいろある。もちろん、親子だけでなく気の合う仲間と訪れて熱弁を振るうSFファンも多いよう。なにしろ色あせることのないSF作家たちの偉大なる足跡がずらりと並んでいるのだ。ついつい語りたくなってしまうのがSFファンの性だろう。

 今回メインとなっているのは、SF短編小説で知られた星新一をはじめ、筒井康隆、小松左京、豊田有恒など日本SF初期の巨人たち。マンガ家・手塚治虫の作品から特撮やアニメなど幅広く紹介しているが、やはり小説と挿絵関連がアツい。束となった生原稿も展示されており、ワープロもない時代の原稿用紙は物理的に情念がこもっているようだ。今回が初公開となる、半村良が『日本沈没』出版後に小松左京に宛てた手紙も、半村が作品から受けた衝撃を素直に吐露していて実に生々しい。あの時代のSFは一般的ではなく、文学界からも理解がなかった。そうした中での作家や編集者たちが必死に切り開いてきたSFという道。ここまでSFが浸透した時代だからこそ、SFの過程と歴史を振り返るのもアリかもしれない。世田谷文学館で9月末まで公開中。
(取材・文/三木茂)

■『日本SF展・SFの国』(2014年9月28日まで)
http://www.setabun.or.jp/exhibition/exhibition.html

【次ページより「日本SF展・SFの国」の展示風景ギャラリー】

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