『喰フ女』(甘詰留太)死にたい奴は望み通り殺してあげよう…人間をバラバラに切り刻むサイコパスな女医のエログロサスペンススリラー!

2018.07.29

『喰フ女』第2巻/甘詰留太

 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された事件を覚えているだろうか。戦後において、最大の死者数を出した事件である。

 その犯人で同施設の元職員である植松聖被告は、「重度の障害者は安楽死させた方がいい」という持論のもと凶行に及んだ。逮捕後もこの持論は何も変わっておらず、創出版から『パンドラの箱』という手記が出版され、物議を醸しだしている。

 こうしたある種の選民思想といえる考え方は、人類の歴史の中で様々な形となって登場する。その最も分かりやすい例が、ナチスドイツのホロコーストだろう。また、こうした考えは文学にも登場する。ロシアの文豪・ドストエフスキーの『罪と罰』もそうだと言える。

 今回紹介するのは、そんな選民思想の影を感じるマンガだ。甘詰留太氏の『喰フ女』だ。

 以下が簡単なあらすじである。

 「遺言バンク」。それは死にたい願望のある人間が集まるアプリだ。そのアプリ利用者が次々と疾走しているという噂がある。

 女医の神代真澄は何者かの依頼によって高い報酬を受けとり、「遺言バンク」利用者から本気で死を望んでいる人間をピックアップし、望み通り殺して死体を跡形もなく処理する裏稼業をしていた。

 神代真澄は極めてサディストでありながらもマゾヒストでもある。死体を解体しながら激しく欲情するのも当たり前な、異常者だった……。


 『喰フ女』に登場する“遺言バンク”の背後にある組織は、死を願う人間がいなくなることは“善”としている。このる組織の実態は分からない。アプリの会社なのか、はたまた国なのか。いずれにせよ、かなり極端な思想を掲げている。

 その思想に心酔しているようにも見えるが、単純に金のためだけに動いてるようにもみえ、殺人からの死体処理が単なる娯楽のようにも思える女医・神代真澄がとにかく美しくも変態で、極めてサイコパスに描かれる。

 死体処理は医者とはいえ結構荒々しく、手足をバラバラにして燃やすという手段だ。そのため、グロテスクな描写にならざるをえない。しかし、『喰フ女』は死体処理などのグロテスクさを売りにしたマンガではない。あくまで、死を願う人間の背景にある、それぞれの人生という物語、そして実は存在する生への希望に、神代真澄が猛禽類のような獰猛さと野獣のようなエロスで迫って打ち砕くのが売りだ。

 死体処理のシーンは『冷たい熱帯魚』を髣髴させてしまほどのグロさがあったりもするが、全体を通してみれば、『喰フ女』はヒューマンドラマを軸にしたサイコスリラーだ。死を望む人間はいなくなってもよいという思想はさておき、登場キャラが送ってきた人生を直視すると、死して当然なのか、生きるべきだったのか、分からなくなっていく。

 それにしても、表紙とタイトルだけでは今作のハードさがほとんど分からない。にじみ出るエロさは感じられるが、こんなマンガなのかよ! とホラー好きであれば良い意味で期待を裏切られる。ただ言えるのは、エロとホラーの愛称は最高ということか。
(文=Leoneko)

【ダウンロードはこちらから!】

喰フ女 1
掲載誌/レーベル:ヤングキング
著者:甘詰留太
出版社:少年画報社☆ 

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