人間が死ぬってことは透明になることだ――。

『熱帯魚のはらわた』最恐エログロ!『冷たい熱帯魚』のスピンオフ!

2013.11.04

『熱帯魚のはらわた』(竹書房)

 1993年に起こった愛犬家連続殺人事件をご存知だろうか。ペットショップのオーナーが、店とトラブルになった客四人を殺害し、自宅の風呂場で遺体を解体、その上ドラム缶で遺体を焼却し、灰などを山や川に捨てたという残酷極まる事件だ。当時はその残酷な犯行手口に注目が集まり、テレビなどで毎日騒がれていた。時を経て2011年、この事件にインスパイアされて生まれた映画がある。
 ――『冷たい熱帯魚』だ。

 ある熱帯魚ショップのオーナーと知り合いになったことで主人公の人生が転落していく様子を描いたこの映画は、『愛のむきだし』の園子温が監督した作品ということで話題になった。それと同時に実際の事件同様、風呂場での遺体解体シーンのグロテスクさ、救いようのない結末なども話題となり、エログロカルトスプラッターとしての評価も高かった。

 そんな『冷たい熱帯魚』の主要人物である村田に焦点を当てたスピンオフ作品がマンガで発売された。『冷たい熱帯魚』よりも以前の話、つまりはエピソード1のような立ち位置の物語が『熱帯魚のはらわた』だ。帯には「映画をさらに上回るエログロ度! 血塗れで震えるしかない!!」と園子温監督のコメントが大きく載っている。

 ※ここから先はネタバレになる恐れがあるのでご注意ください。

 物語の大筋はこうだ。

 童話の『人魚姫』を愛する新人ライターの吉本菜名美は取材先の熱帯魚ショップで村田と出会う。菜名美に対しては人の良さそうな態度を見せる村田だが、実は冷酷非道な殺人鬼だった。そうと分かっても菜名美は村田の圧倒的な存在感に飲み込まれ、自らの手と体を汚していく――。

 帯には園子温監督のコメント以外にも「この作品には暴力シーンやグロテスクな過激すぎる表現が多く含まれています」と注意書きがある。この注意書きは正しい。映画同様、風呂場での遺体解体シーンはふんだんに盛り込まれ、内蔵はネチネチと粘り気のある描写がされ、遺体の切断面から飛び出た人骨も丁寧に書き込まれている。遺体を解体する際の人物の表情は実に恍惚としていて、異常さが際立っている。ただ、この注意書きに性描写については触れていない。

『熱帯魚のはらわた』には性描写が実に多い。本編の6割は性描写と言っても過言ではない。菜名美のハードなオナニーシーンから物語が始まるくらいだ(設定では処女)。

 とにかくエロが多い。コミックを閉じ、適当にページを開いてもだいたいエロシーンにぶち当たる。そしてまた、このエロシーンが実に濃密に描かれていて、エロマンガと大差ない。しかも亀甲縛りや首を絞めながら、陵辱、寝取りなどの暴力的な性描写ばかりで、この手の性癖の人にも大満足の内容だ。これを今夜のオカズに……なんて考える人もいるだろう。犯される女性が必要以上に白濁まみれ、かつ極上のアヘ顔で描かれるのはその手の狙いもあるに違いない。

 しかし、物語の持つグロテスクさ、狂気・異常さ、エロさは大満足な分、設定の疑問点もちらほらとあった。映画でも登場した、飲むと死に至るドリンクが一体なんなのか、コミックでも説明がなかった。村田がなぜ殺人鬼となったかの説明は、1話を丸々使って設けたのだから、ドリンクに対しても何かしら説明がほしかった。また菜名美が処女のわりにはちょっとしたことで股間を濡らしまくり、すぐにオナニーし始めてしまうことに違和感を覚えたし、村田の残虐行為をすんなり受け入れたことも謎だった。そういう設定だから、と言われればそれまでなのだが、描写がていねいな分、そこだけは残念だった。

 そういった設定の疑問点など細かいことは気にしなければ、極上のエログロマンガとしては十二分に楽しむことは可能だ。成人指定は受けていない。

 処女で人魚姫好きの菜名美が、エロと殺人の狂気の世界にどう染まっていくか。自らの運命にどう決着をつけるのか。本書を手にとって自分の目で確かめてほしい。
(文=Leoneko)

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