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松岡修造よりもポジティブな男が火星にいた!! とにかく明るいサバイバルライフのすすめ『オデッセイ』

2016.02.04

 原作は米国でベストセラーとなったオンライン小説『火星の人』だが、本作を見ていて思い浮かべたのは前川つかさの人気コミック『大東京ビンボー生活マニュアル』(講談社)だ。『ビンボー生活マニュアル』の主人公・コースケはお金はないが、時間だけは余るほどある。質素なアパートでの六畳間生活を、お金を使わずに目いっぱい堪能する。インスタント味噌汁にナビスコのチップスターを一枚浮かべることでちょっとしたリッチ気分を味わう。牛丼屋では白いご飯に紅ショウガをたっぷり載せ、熱々のお茶を注ぐことでオリジナルのお茶漬けを楽しむ。お金がないことを逆手に、コースケは幸せな時間を手に入れる。火星に取り残されたワトニーもDIY精神をフル発揮して、赤茶けた砂漠の広がる火星の王様気分を満喫する。

 ワトニーのこの前向きさは、遥か2億2530万キロ離れた地球の人々の心を動かすことになる。一度は「ワトニーは殉職した」と発表したNASAだが、ワトニーが生存しており、まだ彼が生きることに絶望していないことを知ると放っておけなくなる。「バラは美しく咲くのではない。一生懸命に咲いているから美しいだ」という台詞を残したのはチャールズ・チャップリンだ。一生懸命に生きているものを見つけると、人間は黙ってはいられなくなる。ワトニーの生きることへの前向きさは、地球上の国境を越えた人々や帰還の途中にあったルイス船長らへと次々と広がっていく。人間の心の中を伝播するのは、何も恐怖や怒りだけでないのだ。

 ノリのいいBGMが流れる中、デヴィッド・ボウイの名作アルバム『ジギー・スターダスト』の代表曲「スターマン」が後半の見せ場を飾る。ボウイの歌声に合わせ、NASAのサンダース長官(ジェフ・ダニエルズ)やNASA職員のアニー(クリステン・ウィグ)らはワトニー救出プランを実行に移す。ワトニーは地球への慕情をつのらせ、そしてルイス船長ら仲間たちとの再会に胸を高鳴らせていく。この高揚感が堪らなく心地よい。

 本作はIMAXシアターで臨場感たっぷりに楽しむことができるが、3D上映だとひとつだけ困ることが起きる。それは3Dグラスをしていると頬から溢れ出る涙を拭いにくいということだ。
(文=長野辰次)

『オデッセイ』
原作/アンディ・ウィアー 脚本/ドリュー・ゴダード 監督/リドリー・スコット 
出演/マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、クリステン・ウィグ、ジェフ・ダニエルズ、ショーン・ビーン、ケイト・マーラ、セバスチャン・スタン
配給/20世紀フォックス映画 2月5日(金)より日比谷スカラ座ほか全国ロードショー
(c)2015 Twentieth Century Fox Film
http://www.foxmovies-jp.com/odyssey

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