第2回

薔薇族の人びと ~山川純一君、今どうしているのか?

2019.07.25

 1982年から、1987年ぐらいまでに多くの劇画作品を残してくれた山川純一君。もうその頃の第二書房は、単行本の出版は一切やめて、『薔薇族』だけを出す出版社になっていた。

 友人の紹介で山川純一君の作品を単行本にしたいという、とある女社長が経営する「けいせい出版」という出版社から申し入れがあった。『君にニャンニャン』『兄貴にドキドキ』『ワクワクボーイ』というタイトルをつけて、3冊の単行本にして刊行してくれた。

 しかし、その頃すでに経営がうまくいってなかったのか、けいせい出版はあっという間に倒産し、山川純一君の3冊の単行本は、山積みになって残された。女社長から頼まれて、山川純一君の3作品をすべて買いとることにした。1冊いくらで買いとったのか覚えていないが、倉庫に山積みになった3冊の単行本を目の前にして、ため息をつくばかりだった。おそらく彼の全作品が、この3作に収められていると思う。

 だが、倉庫に山積みになっていた「けいせい出版」刊行の3作品を『薔薇族』を置いてくれている全国のポルノショップにも置かしてもらったら、新宿のポルノショップでは売れること、売れること。数年にして全部売りきれてしまった。山川純一君の作品は、ネットで話題になる前から、読者に愛されていたということだ。

 山川純一君は線の細い青年で、あまり行動的な人ではなかった。それに何より金銭的に余裕がなかっただろうから、ゲイホテル、ゲイバア、ハッテン場などには行けなかったに違いない。妄想で作品を描いていたと思う。だからこそ発想が自由奔放で大胆な作品が描けたのだ。

 しかしある日、藤田竜君ともうひとりの編集者が、山川純一君の作品を載せるなと言い出した。髪が長くて顔が長い山川純一君の作品が、嫌で嫌でたまらなくなったようだ。ゲイの人は、嫌い出すともう止まらない。これは理屈でないのだからどうにもならない。嫌なものは嫌なのだ。

 このときすでに山川純一君が、ぼくの目の前から姿を消していたかどうか、はっきりと覚えていない。でももう、そのときには彼は消えていたと思う。

 2003年に、全作品をまとめて「復刊ドットコム」という会社が『ウホッ!! いい男たち。ヤマジュン・パーフェクト』(定価・本体1800円+税)という高価な本にしてくれた。それが増刷をくり返し1万部近く売れた。これは本当に驚きだった。

 山川純一君、今どうしているのだろうか? 掲載を断られたら、他社に持ちこむだろうが、山川純一君はそんなことをしなかった。彼はもう、この世にいないと思っている。
(文=伊藤文學)

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