『チートな魔王の道具屋は、今日もJKJCが働かない!?』温泉宿の再建まで手がける器用すぎる魔王の平和な日常──澄守彩

2015.10.23

 またまた新たな異世界がやってきましたよ~。澄守彩『チートな魔王の道具屋は、今日もJKJCが働かない!?』(講談社ラノベ文庫)。物語は現代の秋葉原から始まります。ちなみにタイトルは、JKJCと書いて「バイト」と読みます。

 主人公・ユートは人間だけど魔界を統べる魔王です。彼が暮らす異世界・オルディアは、人と魔が争う世界なのです。でも、主人公は魔王だというのに、いろいろあって人間たちの住む町で道具屋を営んでいるのです。

 そんな店の従業員は、ダークエルフメイドのワルワラ。普段の武器はハリセン。本気を出すときは眼鏡を外しますが、ガチに強いです。でも、そんな彼女は時空を超えて秋葉原にやってくるオタク女です。その彼女を追って秋葉原にやってきたユートが神楽嶽常立と御中の姉妹に出会ったことから、物語は始まります。

 この異世界、能力の設定はとてもわかりやすいです。神殿に行って精霊を憑依させることで職業が決まります。スキルを積むと、より上位職になれる精霊を憑依させることができる設定です。ただ、失敗すると上位職を狙ったのに一般職になってしまったりしまいます。

 そんな設定がある理由。それは、姉妹が神官から神官天使に「転職」しようとして、魔物使いになってしまった天使・クロッセラを拾ってしまうからです。

 そう、魔王の営む道具屋に天使が出入りするようになってしまうのです。でも、天使のほうも、まったく気づくそぶりがありません。

 なんて平和な世界なんでしょう。

 このほのぼの世界観が最高潮に達するのは第三章です。ここでユートはクロッセラから、客の来ない温泉宿の再建を依頼されるのです。たとえ異世界に行っても、ちゃんと仕事はしなきゃいけないし商売の浮き沈みもあるんだろうな……なんて、リアルワールドとシンクロしてしまうような展開ですね。

 さて、この温泉宿なんですが経営しているのはドワーフです。人界の外れにあるとはいえ、経営しているのは魔族です。なのに再建しようとはどういうことかとユートに問いただされ、クロッセラは答えます。

「これほどすばらしい温泉を守り続ける女将が魔族かどうかなど、些末なことだ! 男なら細かいことは気にするな!」

 あまりの世界の平和さ加減に涙が出てきます。終盤、物語は少々ハードなバトルになっていき、ユートが人間なのに魔族な理由。加えてユートよりも強そうなワルワラの正体も明らかになっていきます。

 でも、そんな謎よりも本作を楽しむポイントは、ゆるいハーレム感でしょう。もうね、JKJCが自分の店でバイトしているって考えたら「生きていてよかった!」と思うじゃないですか。

 筆者も読んでいるうちに、改めて「ああ、異世界に行きたいなあ」と思ったくらい。改めて異世界ものは永遠に続くジャンルだと思った一冊でした。
(文=大居候)

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