“ラノベ嫌い”のためのライトノベル入門 第1回

25歳のダメ男が美少女と怠惰な日々を過ごす…俊英・森田季節が「完全に趣味で書いた小説」

2014.04.08

――年間600作を超えるシリーズものが刊行されるといわれるライトノベル業界(宝島社刊「このライトノベルがすごい!2014」より)。そこは多種多様なジャンルに分かれ、数多くの作品が切磋琢磨する文芸の最前線。今、いわゆるライトノベルから逸脱した作品や、ライトノベルでしか表現できないような境地に至った作品が次々生まれているのだ。「萌え絵が苦手」「ライトノベルなんて小説じゃない」と読まず嫌いをしているアナタに贈る、「“ラノベ嫌い”のためのライトノベル入門」スタート!

不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)(小学館「ガガガ文庫」/著:森田季節 イラスト:にぃと)

■『不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)』
著/森田季節 イラスト/にぃと
出版社/小学館「ガガガ文庫」
価格/590円+税

[ラノベ以外に、こんな作品が好きな人におススメ!]

【小説】『夜は短し歩けよ乙女著:森見登美彦
 自意識過剰で周囲にうちとけられない青年像に好感!
【アニメ】『Wake Up, Girls!監督:山本寛
 ショービジネスのせつない裏側をのぞきたいなら。
【映画】『レスラー監督:ダーレン・アロノフスキー
 夢を諦めきれない男の生き様!

 いきなりで恐縮だが、ライトノベルの読者というのはなかなか厄介な存在だ。移り気で、いつも目新しい作品や、奇抜な作品を求めている。それでいて作品が、自分たちが好むジャンルの王道的展開から外れた方向に進むと“カテエラ(カテゴリーエラー)”と評して、失敗作扱いする読者も多い。だが地図に未開の地が載ってはいないように、新たな面白さを獲得するには、あえて今ある道を踏み外したり、異なる道を行く勇気も必要だろう。『不戦無敵の影殺師』は、そんな蛮勇に満ちた意欲作だ。

 著者である森田季節は、数多いライトノベル作家の中で、かなり独自のポジションにいる。2008年、『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』(KADOKAWA/メディアファクトリー)で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞を受賞し、デビュー。それ以来、さまざまなライトノベルのレーベルからコンスタントに新作・新シリーズを刊行し続ける傍ら、一般文芸でも、奇妙なサークルに入部してしまった大学生を主人公にした『エトランゼのすべて』(星海社)などの青春小説、『ノートより安い恋』(一迅社)を筆頭とする少女同士の心の絆を描いた百合小説、掌のノードを介して人々が情報や思念を交換する近未来を舞台にした『不動カリンは一切動ぜず』(早川書房)といったSF小説など、多岐にわたるジャンルの作品を次々と発表。現時点で、アニメ化作品やベストセラーこそないが、2011年に出版された書評家・大森望選の書き下ろし短編SFアンソロジー『NOVA 4』(河出書房新社)では、京極夏彦や山田正紀といった錚々たる顔ぶれと並んで原稿を寄せるほどの、知る人ぞ知る“実力派”作家だ。

 しかし、その小説技巧と全体のトレンドへの洞察力の高さゆえか、昨今の森田季節の書くライトノベルは、キャッチーなキャラクター造形、いわゆる“キャラ立て”やテンポのよい会話、心地よい読後感をことさら重視した、あまりにも“ライトノベルらしい作品”が多かったように思う。ライトノベルの読者層に向けて最適化した作品、というと言いすぎだろうか。もちろん作品として一定の水準は常に保っているし、そもそもライトノベルのレーベルから刊行されるのだから“らしいライトノベル”を書くのは当然かもしれない。

 だがデビュー作『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』や一般文芸寄りの作品での、周囲に違和感や疎外感を覚え、少し斜に構えてそれらを見つめる永い思春期のような過剰な感受性を持った視点――筆者はそれこそが森田季節の作家性だと信じる――のファンにしてみれば、それらの作品に正直少々物足りなさを感じていたのも事実だ。だから、タイトルを見たときは、若干不安だった。『不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)』、いまやライトノベルのメインストリームとなった異能力バトルを連想させるそのタイトルに、また“らしいライトノベル”なのではないか、と思ったからだ。

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