LGBT社会運動派閥のダシにされた!? マンガ『境界のないセカイ』騒動は思わぬ方向へ…

2015.03.26

 幾夜大黒堂氏のマンガ『境界のないセカイ』の作中の表現が性的マイノリティ(LGBT)から批判を受ける可能性があるとして、講談社が単行本の発売を中止し、連載も打ち切りへ追い込まれた事件。この事件について、作品を連載するマンガアプリ「マンガボックス」にて、かねてから告知されていた樹林伸・「マンガボックス」編集長の声明が今月25日に発表された。この公式声明は「マンガボックス」に掲載中の『境界のないセカイ』第15話の末尾に掲載されている。

 公式声明では「この度、本アプリ掲載作品『境界のないセカイ』を連載中止させていただくことになりました。本作品を楽しみに読んでいただいていた読者の皆様には大変申し訳ありません。幾夜先生には、連載の中止をご理解いただき、大変感謝しております。また、今後、マンガボックスでの新作連載を目指していただけるともおっしゃってくださり、編集部としてはそれがなによりありがたい言葉でした。幾夜先生の次回作および今後のマンガボックスにご期待ください」と、樹林伸編集長の署名でつづられている。

 この発表を前に、樹林氏は自身のTwitterで「実際は一両日中に講談社も公式見解を出す予定で、樹林編集長のコメントも出ます。ただ後者は大幅に内容をカットされました」と記していた。

 この件について講談社に問い合わせたところ、公式見解の発表については樹林氏の認識の齟齬で、講談社からは声明を出さないと明言。その上で「樹林氏の文章は事前に見せていただいたが、講談社側ではカットはしておらず、(カットをしたのは)マンガボックス側の判断」であることを強調していた。

■問題はLGBTの運動のあり方をめぐる議論へも波及

『境界のないセカイ』騒動については、3月9日に作者の幾夜大黒堂氏が単行本の発売中止と連載の打ち切りを発表したことで注目を集めたもの。幾夜大黒堂氏が自身のブログなどで発表した発売中止の原因は、登場人物の「女性なら男性と恋するのが普通でしょう?」などのセリフに対し、性的マイノリティ(LGBT)からの批判を恐れた講談社側が過剰に反応したのではないかと見られている。

 この問題をめぐっては、当事者であるLGBTからもさまざまな形で議論が噴出している。18日にはLGBT団体の一つ「レインボー・アクション」が「作品の描写に問題はない」とする声明を出している。しかしながら、LGBT関連の社会運動に関わる人物からは、こんな証言も。

「ほとんどのLGBTはこの問題に関心を持っていないし、問題の存在自体を知らないのです」(LBGTの社会運動関係者)

 LGBTの社会運動は、常に対立や分裂を繰り返してきた。この人物の説明によれば、最近は大きく2つのグループに分かれているという。小さな問題も「差別」だとして運動に結びつけようとする東京大学准教授の清水晶子氏らによるグループと、一方で「当事者が“差別”と言ったものは、すべて差別」という考えに疑問を呈する評論家・伏見憲明氏らのグループだ。

 今回、『境界のないセカイ』の描写には問題がないという声明を出した団体「レインボー・アクション」は、前者の清水氏寄りのグループであり、「こうした騒動に参入して声明を出すことで、LGBTに関する社会運動のヘゲモニー(覇権)を得ようとしているのではないか」という声も散見されている。

「LGBTの当事者が考えるべきは、LGBTが圧力団体として見られるようになってきたという現状でしょう。でも、運動家は承認欲求ばかりが強くて、この点があまり顧みられていません」(あるLGBT活動家)

「レインボー・アクション」について確認をすると、グループ内の「男らしさ研究会」のチーフとして、映像作家の根来祐氏が名を連ねていた。この人物は、2010年に“マンガの表現の自由”をめぐって争われた東京都青少年健全育成条例改定問題の際、法案が可決直前となって「東京都青少年健全育成条例改正案に反対する緊急ネットワーク」なる組織を立ち上げた。彼女はこの問題に対する女性の意見を代表するかのような振る舞いを見せ、都議会民主党控え室に押しかけて関係者から「今さら現れても遅いわ」と、顰蹙を買った人物として、当時「表現の自由」を訴えていた人々には記憶されている(この際、すでに自身が脱退していたキャバクラユニオン【編注:水商売従事者の労働組合】の名刺を配ったことでも物議を醸した)。このような人物が関わる団体が、今回の「声明」を出したことに、筆者は裏の意図を感じてしまう。

 ネット上では『境界のないセカイ』を、「女性差別」と批判されたルミネCMと絡める言説も出てきたりして、問題が次第に本質から外れていっていることだけは感じ取れる。
(取材・文/昼間 たかし)

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