安田理央の「特殊古書店ダリオ堂」 第3回
楳図かずお、柳沢きみお、江口寿史に“ギャグ漫画”を語らせた『まんが劇画ゼミ』のちぐはぐさがむしろ秀逸!
2014.04.24
そしてこのギャグ編は、楳図かずお、柳沢きみお、江口寿史の3人。……ギャグマンガ家と言ってこの3人というのは、なかなか癖のあるセレクトだと思いませんか?
この当時、楳図かずおは『まことちゃん』、柳沢きみおは『翔んだカップル』、そして江口寿史は『すすめ!! パイレーツ』でヒットを飛ばしている最中だったわけですが、いずれもそれまでのギャグ漫画の枠を飛び越えた新機軸的な作品だったわけですよ。
なもので、彼らが「ギャグマンガ」を語ると言っても、ほとんどギャグについて触れてないんですよね。楳図かずおは、それまで描いていた恐怖マンガについての引用が多く、おどろおどろしい図版ばかり。
柳沢きみおは「ギャグよりも青春ものを描きたい」なんて言っちゃってて、『翔んだカップル』の暗い図版のオンパレード。この本をパラパラめくっていると、とてもギャグ編だとは思えません。
残る江口寿史は、この時点では連載マンガは「パイレーツ」のみということで、ひたすら「パイレーツ」のスピーディなギャグシーンを引用しているんですが、他の2人に比べて年齢が若い(23歳!)ということもあって、文章のノリが軽い、軽い。まぁつまり、浮きまくっているわけです。
ギャグマンガ入門書としては少々バランスが悪いように思える本書ですが、読み応えはあります。『まことちゃん』は『がきデカ』よりも『サザエさん』に近いという楳図かずおの自己分析には唸りましたし、ラブコメからシリアスな展開へと路線変更して読者を驚かせた『翔んだカップル』は「当初からそのつもりだった」という発言も興味深いものがあります。そして『パイレーツ』のギャグが34年後の今読んでも十分に面白いというのも、新たな発見でした。いや、むしろ新鮮。
漫才などは、昔のものは今の感覚では遅いと感じることが多いんですが、80年代のギャグマンガって、今よりスピーディなんですよね。小さいコマでリズミカルに攻めてくる。この辺はちょっと意外でした。
ギャグマンガはこの後、吉田戦車などの登場により、間合いを活かしたオフビートの時代に突入するわけですね。
この『まんが劇画ゼミ』、他の巻も読みたくなりました。
安田理央(やすだ・りお)
1967年、埼玉県生まれ。主にフリーライター。及びアダルトメディア研究家、ニューウェーブ歌手、など。主な著書に「日本縦断 フーゾクの旅」 (2004年 二見書房)「エロの敵 今、アダルトメディアに起こりつつあること」(2006年 翔泳社 雨宮まみと共著 )、「45歳からのアニメ入門」(2013年 Kindle 田口こくまろと共著)などがある。
●公式サイト<http://www.lares.dti.ne.jp/~rio/>
●公式ブログ<http://rioysd.hateblo.jp/>