【吾妻ひでおさん追悼】変質者、ロリコンが生み出したオタク文化 『改訂版 ロリコン大全集』を読む

2019.10.23

『改訂版 ロリコン大全集』(画像は編集部で修正を入れております)


 編集部から吾妻ひでおさんの作品群について、寄稿を求められたのだが、これは困った。

 伝説の同人誌『ミャアちゃん官能写真集』とか『吾妻ひでおに花束を』あたりから語るのか。はたまた『別冊奇想天外 吾妻ひでお特集号』から語りましょうか……。

 うん、なにを描いてももっと上の世代のリアルタイマーから「違うぞ」と突っ込まれそうだし、自分より下の世代には「なにが描いてあるかわからん」とそっぽを向かれそうです。追悼の意を込めて冬コミのコスプレは、蛭児神健氏の定番、変質者スタイルだな……とか、色々と考えるわけですが、ここは吾妻さん作品が掲載されているすごい本について触れてお茶を濁しておこうと思うのです。

 そこで本棚から取り出したのが、群雄社出版から1983年に刊行された『改訂版 ロリコン大全集』。今は、某テキスト系サイトの中の人として知られている川本耕次氏編集による伝説の本であります。

 筆者も報道や調査目的で所有しているわけですが、現在は法律の都合で売り買いすることは叶いません。ちなみに、表紙もモザイクをかけないとこのサイトが消滅します。

 この本、オタクの源流として「ロリコン」というキーワードが無視できないことを知らしめる豪華執筆陣の文章がワンサカ掲載されています。杉浦日向子氏、米澤嘉博氏、高取英氏。そう、80年代にパンデミックしたビョーキであるロリコンに最先端文化たるオタクの先達たちは、みんな感染していたのですな。21世紀になって児童ポルノ法をめぐる問題で、創作物規制に反対する論調の中で「実在児童の人権保護」などという言葉も登場しましたが、この時代はもっとハードコアです。

 なお、警察当局が少女の無毛のワレメはワイセツだと判断したのは、この年に白夜書房が刊行した『ロリコンランド』8号が摘発されてから。それまで、少女のヌードはもちろんのこと、毛の生えていないワレメはまったく問題にされていなかったのです。

 吾妻ひでおさんの作品群が「ロリコン」の代表格として賞讃されていたのは、そんな時代でありました。

 いや、別にオタクがみんな少女に性的に興奮しまくる変質者だったわけじゃあありません。今では、オタクは「自分たちは多数派だ」と信じることに快感を覚えていますが、かつては逆。いかに自分たちがマイノリティであるかが快感であり、最先端だったのです。いやいや、やっぱり「俺たちは変質者だった」と楽しめた時代のほうがよかったな。

 さて、そんな時代の『改訂版 ロリコン大全集』に収録された吾妻作品「仁義なき黒い太陽 ロリコン篇」。掲載誌の趣旨に反して単なる内輪ウケの作品です。

「フリーロリコン もとFP組 緒方」
「大阪ロリコンまんじゅう本舗 ゼネラル組 組長 岡田としお」

 など、当時の業界事情に通じていないとワケがわからない身内ウケなネタでシュールな仁義なき戦いが繰り広げられる掌編です。

 こんなのが許されたのも、当時の彼らが互いに変質者同士距離が近かったからに違いありません。その世間とは距離をおこうとするパワーこそが「ロリコン」に始まるオタク文化の勃興であったことはいうまでもありません。

 やっぱり、多数派になって世間におもねるものじゃない。ムーブメントをつくるのはいつも変質者。そんなことを改めて考えるのでありました。
(文=昼間 たかし)

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