トップ > その他 > 連載 > 記事詳細  >  > 2ページ目

“生涯ドルヲタ”ライターの「アイドル深夜徘徊」vol.34

「ファン」が「オタク」になる瞬間――ドラマ『だから私は推しました』第3話

2019.08.17

 その頃、愛はもうひとつ大きな問題を抱えていた。それは、自分がオタクであることを、周囲の人に告げられずにいることだ。

 この、“職場バレ”や“親バレ”、“学校バレ”などは、実に多くの人が抱えている大問題だ。それを告白するかどうかは本人次第だが、ただひとつ、私の実感としてあるのは、オタクの才能のない人に、オタクの心情を理解してもらうというのは、まず無理ということだ。だから、そんな相手にいくら理解してもらおうと説明しても、こちらが傷ついたり、疲れたりするだけなので、そこはもう割り切って付き合うか、縁を切るか、どっちかにした方がいいと思う。

 事実、愛の“リアルでの友人”、菜摘(土井玲奈)と真衣(篠原真衣)は、地下アイドルや、彼女たちを応援する人の気持ちを全く理解せず、むしろ蔑むようなことを言う。

「現実社会での友達との関係」と「アイドルファンとしての自分」、そんな葛藤の中で、愛は気づく。やっぱり「やりたいことをやるべき」だと。本当の気持ちを話した愛に、2人は冷たかった。真衣に至っては、「それは“共依存”だ。カウンセリングに行ったほうがいい」とまで言い放つ。

 その言葉に、何かが吹っ切れた愛は、友人との関係を断ち切り、ハナからもらった推しT(推しの名前が入ったTシャツ)を着てライブに行く。愛が、“ファン”から“オタク”になった瞬間であろう。

 正直、私も昔は職場などで、自分がアイドル好きであることは隠していた。しかし、ある時異動で配属された職場にオタクに理解のある人がいて、そこで初めてカミングアウトすることができた。それからは、本当に肩の荷が下りたように楽に、そして楽しくなった。昔に比べ「オタク」という存在は、飛躍的に市民権を得たと思う。今では、アイドルフェスを開けば8万人以上が集まり、コミケに至っては70万人以上の人が参加しているのだ。

 彼らは別に、「オタクに人権を!」などという活動をしてきたわけではない。ただただ自分の好きなことを極め、同好の士とつながり、それがこれだけのムーブメントになっていった。そんな意味でも、私は、オタクであることは誇ってもいいと思っている。

 今回の愛のように、オタクであることを公表して、何かを失ってしまうことがあるかもしれない。でも、それは多分、彼女が幸せに生きていく中で、元々必要ではなかったものなのだと思う。本当に恥ずかしいのは、他の人と違うものを好きになることではない。好きなものを好きだと言えないことこそが恥ずべきなのだ。

 さて、ドラマの方ではいくつかの謎が提示されている。取り調べを受けている愛が、しきりに時刻を気にしているのはなぜか? 小豆沢(細田善彦)が、メンバーの花梨(松田るか)にいろいろとお願いできるのはなぜか? そして、厄介オタの瓜田(笠原秀幸)が、あんなにお金を持っているのはなぜなのか? こうした伏線の回収も、ドラマの楽しさでもある。

 最近、アイドル現場でも、この作品についての話を聞くことが多くなった。現役のアイドルオタは、皆“面白い”と口を揃えている。好きなことを突き詰めた人が“好き”というのだ。本物の面白さであることは間違いない。

(文=プレヤード)

編集部オススメ記事

注目のインタビュー記事

人気記事ランキング