【アニメレビュー】老盗人の手腕とアニメならではの演出が鮮烈! 現代にも通じる重いが粋な『鬼平』第十話「泥鰌の和助始末」

2017.03.15

TVアニメ『鬼平』公式サイトより。

 老盗人の意地と妙技が鮮やかに炸裂したTVアニメ『鬼平』(テレビ東京系)第十話「泥鰌の和助始末」。原作小説(作:池波正太郎/文藝春秋)やTVドラマから、上手に物語をリサイズされていたし、派手な演出もあって、人気のエピソードに相応しい出来であったが、今週はネット上のファンの反応も面白かったので、あわせて紹介してみたい。

 養子のお順にせがまれ、とある盗人にまつわる昔話を始めた長谷川平蔵。普段は腕の立つ大工として働く和助は、大工仲間の孫吉と再会。孫吉の息子・磯太郎は実は和助の息子だが、孫吉夫妻が引き取って、実の息子として育てていた。

 有名な紙問屋・小津屋でしっかり働くようになった磯太郎の成長を、孫吉夫妻も和助も喜んでいたのだが、磯太郎は小津屋の主人に嫌われてしまっていた。いじめられ、脅される磯太郎を励ます和助。だが、店の金を横領という濡れ衣を着せられた磯太郎は、自ら命を絶ってしまう。さらに磯太郎の死にショックを受けた孫吉夫妻2人も死を選ぶ――。

 思わずため息が漏れてしまうような救いようのない展開。特に先代の小津屋に主人には可愛がられていたことを嫉妬され、当代の主人にいじめられ抜いた磯太郎の境遇には「パワハラか」「労基のない時代こっわ……」といった声、事情をよく知らない和助が磯太郎を「おとっつあんおかっつあんもお前が小津屋で働いてるのをあんなに喜んでるんだ」と慰めたシーンでは、「アカン……その慰めはアカンて……」といった悲鳴にも似た声がネット上をにぎわせた。

 放送時間的にも、作品の内容的にも、『鬼平』視聴者はそれなりに年齢層が高いのだろう。磯太郎の境遇を自身に当てはめて考えてしまった社ち……社会人が多かったようだ。「題材に古臭さを感じない。ブラック企業死すべし」といった声もあったが、個人的にも頷ける。これはこの十話に限らず、題材は江戸、原作小説が作られたのは昭和だが、人間の善悪・思いに関する問題を洒脱に描く『鬼平』のストーリーは、2017年にアニメという新しい媒体で観ても古臭さを感じない。

 3人の恨みを果たすべく、足を洗ったはず和助は一夜に限り盗人に復活。卓越した手腕で小津屋から大量の千両箱と、「盗人的には何の役にも立たないが、盗まれると小津屋がすごく困る」証文を盗み出すことに成功。また彦十からの報告で事情を承知している鬼平が、和助の敵討ちを黙認するという下りも、相変わらず清濁あわせ飲む器の大きさと、粋で格好良かった。

 とはいえ、小津屋に盗みに入ることは見逃しても、盗人たちを見逃すわけにもいかないのだろう。鬼平が川舟で逃げる盗人たち一行を橋で待ち構えていると、和助は「みんな! こいつら川へ捨てるんだ。船を軽くしねぇとお縄になっちまうぞい!」と盗み出した千両箱、そして証文を破り、川へと放り捨てる。

 千両箱から撒き散らされた小判がキラキラと光り、細かく破った雪のように舞い――とこのシーンが実に綺麗だった。実際、街灯もなかった江戸時代に小判をいくら撒いても、あんなに綺麗に輝いたりはしないはずだが、和助の心象風景を表しているのだろう。磯太郎がポツリと口にしていた「雪が好き」というセリフも、ここで効いていたし、何よりこんな派手な演出はアニメならでは。

 どんなに頑張っても実写のTVドラマでは、ここまで派手な画を撮ることはできなかっただろう。殺陣シーンでの格好いい剣戟アクションとあわせて、改めてスタッフの手腕を褒めてあげたい。

 次回十一話は「むかしの男」。ついにきてしまった、平蔵の妻・久栄の昔話だ。正直、原作ではあまり爽快感がないエピソードであったが、平蔵とその周辺の人物像をしっかり描くためには避けて通れないエピソードでもある。第2期などの新展開をきっと構想しているのだろうと、前向きに捉えて来週もしっかりと見届けたい。
(文・馬場ゆうすけ)

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