『マヤさんの夜ふかし』(保谷伸) 深夜の不毛な通話が魅力的になる……

2016.11.11

 いや~、とてつもなく共感できる作品です。保谷伸『マヤさんの夜ふかし』(徳間書店)。夜中になんか作業しながら、Skypeとかで、どうでもいい通話をしている人ならば。

 この作品、自称・魔女のマヤさんとマンガ家志望の豆山が、深夜にダラダラと通話をしているだけの物語です。それも、豆山は作業をしながらの通話ですが、マヤさんのほうはゲームをしているだけ。何か、不毛さを感じる世界で通話は続くのです。

 そんな物語が、少し現実と違うのは、マヤさんが魔女であること。自称しているだけではなく、本当に魔女であることは、そこはかとなく匂わされますが、まったく誰も信じていません。そもそも、2人が仲良くなったのは病院でベッドが隣り同士だったから。マヤさんは、魔女を自称する自分のことを豆山が信じてくれたと思っていますが、豆山はといえば単にマンガのネタが欲しかっただけ。

 何しろ、マヤさんはネットゲームにはまって課金をしまくり、電化製品に囲まれて過ごしています。そんな科学の恩恵を受けているヤツを、誰が魔女だと信じるでしょうか?

 おまけに、マヤさんは魔法を使うとお腹が痛くなったり、挙げ句の果てには盲腸炎になってしまうという、ぶっとんだ設定も存在したりしています。

 さて、物語の中で、2人が住んでいるところは、遠く離れているようで、コミュニケーションはもっぱら通話のみです。

 そんな通話は、人間が生きるための教訓をいくつも読者に示唆してくれます。例えば、深夜についついクリックしてしまう賃貸サイトのバナー広告。それを思わずクリックしてしまいそうになるマヤさんに、豆山は告げます。「それは罠」だと。

 人は引越をする予定もないのに賃貸サイトを閲覧すると、多くの時間を浪費してしまう。なぜなら、予算も関係なくどんな生活をするのか妄想してしまうのです。

 これ、多くの人が思い当たるフシのあることではないでしょうか。筆者も、賃貸サイトで多くの時間を浪費してしまっているがゆえに、とてつもなく共感してしまいました。

 そんな教訓と共に、リアルよりもネットで会う機会が多い友人とならではの問題も、物語には登場します。

 それは、顔が見えないがために相手が怒っているのではないか……と、なってしまう現象。マヤさんもまた、この現象に陥ってしまいます。いくら話しかけても、豆山は無言。それは、もしや相手が怒っているのではないか。じゃあ、いったいどの一言が怒らせてしまったというのか……。目の前に相手がいるかのように見えて、実際に繋がっているのは細いインターネットの線だけであることを、思い知らされる瞬間です。

 実のところ、不毛と思われそうな深夜の作業中の通話。でも、その通話が妙に魅力的に感じられる作品です。

 というわけで、筆者もSkypeでオンラインになっている友人を探してみたいと思います。
(文=大居候)

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