長岡マキ子『絶対にラブコメをしてはいけない学園生活24時』 きっとPasswordは「愛」――新たな竹井ヒロインが降臨! 

2016.08.13

 イラスト担当が『同級生』シリーズなど数々の恋愛シミュレーションゲームで、多くの男子を虜にするヒロインを生み出してきた竹井正樹なんです。この長岡マキ子『絶対にラブコメをしてはいけない学園生活24時』(講談社ラノベ文庫)。

 多くの竹井ヒロインの中で『同級生2』の桜子ちゃんの、病弱を看板にした腹黒い計算高さに気づいたときに、少年は大人になる……と思っている筆者。まあ、懐かしさと新しさを感じつつ、楽しむことができる作品なのは間違いありません。

 作者の長岡氏ですが、これまでは富士見ファンタジア文庫や角川ビーンズ文庫でも活躍してきた作者です。講談社ラノベ文庫は、集英社のダッシュエックス文庫と並んで、少年時代からラノベに慣れ親しんできたオッサンオタが喜ぶ作品を揃えたレーベルだと思っているわけですが、確かに長岡氏の作風はラノベに一家言ありそうな面倒くさい読者も黙らすことができそうなものだと思います。

 さて、今回の物語。ストーリーのメインは、すべてバーチャル空間で繰り広げられます。つまり、主人公がギャルゲーの中に入ってヒロインたちを攻略するストーリーなんですよ。

 物語の主人公・鈴瀬くんは風紀委員の佐倉凜音から没収した謎のディスクの相談を受けます。その最中、すなわちプロローグから告白イベントなども発生しちゃうわけですが、その決着もないまま、付属のヘッドギアを装着した鈴瀬くんはゲームの世界に入り込んでしまいます。

 ゲームのタイトルは「絶対ラブコメ学園」。なんか地雷臭のするタイトル。おそらくリアルにあれば、有名イラストレーターが原画を描いているけど発売日が延期を重ねたり、攻略キャラが限定されていたりして、叩かれまくりそうな作品ですね。

 そんな妄想はともかく、ヘッドギアを装着した鈴瀬くんは、そのままゲームの世界に飲み込まれいきます。ゲームの世界、それは現実で鈴瀬くんが過ごしている世界。そして、攻略するキャラは、クラスでもウワサになっている眠ったままになっている生徒たちだったのです。鈴瀬くんに課せられた使命は、ゲームの世界で生徒たちと両想いになり、現実世界で彼女たちを起こすことにあるのです。

 しかも、このゲームは超危険。セーブはできるけれども、一度プレイを始めたら中断したり電源を落とすことはできないのです。すなわち、なんとか全員とトゥルーエンドを迎えて現実世界に戻せという無理ゲーだったんです。

 しかも、さらなる無理ゲーとしての要素があります。それは、現実世界でたった今、告白してきた佐倉さんが妹……鈴瀬凜音としてゲーム世界に存在してること。セーブポイントでもある彼女をも、ちゃんと攻略しなければならないというのだから、難易度は相当高いのです。

 この妹要素……きっと『同級生2』に影響されたんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。

 かくて、クリアしなれば自分もリアルの世界に戻れないということもあって、総当たりな攻略は始まります。かつて竹井ヒロインに恋した男子は、あのマップをグルグルと回って、ヒロインを探した時の苦しみを思い出すのではないでしょうか。

 古きよき総当たり恋愛ゲーの雰囲気を醸し出す本作。オッサンには懐かしさを。少年には新しさを与えてくれることは間違いありません。

 どっちにしても、Passwordは「愛」です。
(文=大居候)

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