『なのは洋菓子店のいい仕事』ドタバタラブコメ時々シリアス 舞台は洋菓子なのに設定は甘くない! 

2016.04.29

 辺ぴな丘の上にある「なのは洋菓子店」のショーケースには、ケーキがひとつもない。お客も全然来ない。経営難で生活が困窮しているのにもかかわらず、のんきでわがままな天才パティシエで菜花(なのは)3兄弟の長男・タイムは、くわえタバコでいつものんびりだらだら。次男で節約家のセージは、安売りクーポン券集めが趣味のしっかり者だが、ケーキは作れない。末っ子のぱせりは天使のように愛らしい7歳の少年で、何故か動物と分かり合える特殊能力を持つ!?  『なのは洋菓子店のいい仕事』(作:若木民喜/小学館)は、物語当初は1話完結で展開されていくが、実はタイムが“死人”であることが早い時点で明かされる。タイムの友人である坊主・西大路祐天の作った特殊なタバコ仕様の薬で、彼は人間の姿を維持しているのだった。

 そんなシリアスな背景も持ちつつ、物語はコミカルに展開していく。「なのは洋菓子店」のライバルの和菓子店、「和菓子しらかわ」は、長蛇の列ができるほどの人気店。セージの幼馴染であるかの香は接客担当で、タイムに異様なまでの敵対心を持ち、普段は温厚なかの香の姉・ほの香は腕利きの店主。セージはほの香に思いを寄せているが、緊張して話しかけられない上に、そもそもそんな機会も持てないほどの「白菜戦争」勃発中という関係の両店だった。洋菓子 vs 和菓子のライバル関係という状況に加えて、タイムが昔と変わってしまったことに怒っている様子のほの香。一体この2人にはどんな過去が隠されているのだろうか? それは先日発売された最新刊4巻で明らかにされている。

 そこへ登場したのは超理論派少女の言葉(ことのは)・S・サリンジャー。彼女は、なのは洋菓子店が建つ土地の買収を考えている父親のため、セージの許嫁であると偽り、なのは洋菓子店に潜り込むことに。生まれてこの方、部屋に閉じこもって勉強ばかりしてきた言葉は、どんな現象も知性で理解できると信じて疑わないため、計算に基づいてすべての行動をとっている。無事セージと接触できたものの、人の心は理論では理解できないし動かせない。しかしなんとか従業員として(?)なのは洋菓子店に潜入できた言葉は、今後の物語のカギを握る主要キャラクターの一人となっていく。無感情で無表情の言葉が、本来の潜入目的を忘れてさまざまなトラブルに巻き込まれても、いまだに「理論上は……」と考え続けているのがおかしい。

 その後さらなる主要キャラクターとして登場する今出川雪近は、以前出場したコンクールでタイムに出会い、そして敗れたことから、打倒タイムを目指して修行を積んで、今やパティシエ会のナンバーワンになっていた。コンクールから5年経ったある日、偶然タイムと出会い勝負を挑もうとするが、全身全霊を込めた勝負に何度も空回りする姿には思わず笑ってしまう。しかしユキチカもタイムの様子が以前とは変わっていることに気付いていた。もちろん彼が死ぬ前の──。なりゆきでユキチカとコラボスイーツを作ることになったタイムは、改めてユキチカと近く接する。タイムが今食べさせたいのは2人だけ、という言葉を聞いたユキチカは、なのは洋菓子店の前にキャンピングカーを停め、改めて毎日タイムに挑んでくるハメになるのだった。

 前作『神のみぞ知るセカイ』では、次々と美少女が登場してきて、いかにも少年誌向けの作品だったが、今回の『なのは洋菓子店のいい仕事』でも可愛い女の子がたくさん出てくる。物語開始直後は毎回お客様として悩みを持つ少女が現れて、それをタイムが追い返したり追い詰めたり……結局は救うハメになったり。展開が安定してくると、女の子の登場人物は言葉やかの香、ほの香にスポットが当てられるが、それは決して今後の美少女の登場を否定するものではないだろう。もっと美少女を登場させて、長期連載されることを期待したい。

 洋菓子に関するウンチクがよく出てくるが、小難しくないので完全に理解しなくても大丈夫。カバーを外すと、さまざまなケーキの裏事情などが書かれているので、興味のある人は読み込んでみるといいだろう。スイーツ系ドタバタラブコメ&ちょっとワケありな『なのは洋菓子店のいい仕事』は、まだまだ謎めいていて興味深い。設定としてはオネエでホモなタイムの友人、祐天くんがいい味を出している。少年誌ゆえにあまりホモ的な話に触れられないのが腐女子的に残念だが、「和菓子しらかわ」の店員たちなどの個性の強いキャラクターがいい味を出している。だがしかし、果たしてタイムに残された時間は……? 今後の展開からも目が離せない。
(文/桜木尚矢)

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