坂東太郎『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら 1 自宅ごと異世界に転移してた』制服女子高生が付いてくる。ネットも繋がる異世界もの。

2016.06.16

 こんなに恵まれた環境を得ることができるなら、一度はニートになってみてもよいかと思った、坂東太郎『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら 1 自宅ごと異世界に転移してた』(オーバーラップ文庫)。

 毎度おなじみ、異世界ものの定番、小説投稿サイト「小説家になろう」からの登場である。

 もう、一種定番になりすぎた感もある異世界もの。当然、書き手のほうも意識しているのか、「またかよ」と思われないための新機軸を打ち出してくるのは当然だ。

 物語の主人公、ユージこと北条雄二は15歳の時から10年もの間、引きこもっていた筋金入りのニートである。そんな彼も、いよいよ宇都宮市の郊外にある家の敷地から出ることを決意した。なぜなら、一週間前に両親が交通事故で死んでしまったのである。

 家から出るきっかけがなければ物語が始まらないとはいえ、いきなり重いスタートである。でも、ユージには悲しみよりも10年ぶりに家から出なければならなくなったことのほうが重大事の様子。残された肉親は妹だけだが、彼女は結婚して海外にいるので、自宅に残されたのは飼い犬のコタローだけ。

 男前なメス犬のコタローがいたことで、ひとりぼっちではないと感激したユージは、いよいよ意を決して家の門を開ける。そこにあったのは深い森であった。

 こうして始まる物語。これまで転生というと、何かと巻き込まれて単身系が多かったことを考えると、かなーりワクワクする物語である。要は建物ごと異世界に飛ばされてしまったわけだが『漂流教室』ほど壮大じゃない。いうなれば、ドラえもんの道具。家ごと海やら山やらに転送したら、何も知らない、のび太のママが酷い目にあう系の。そんなクスっと笑わせる面白さのある異世界行きである。

 そして、このユージという男、ニートのくせに恵まれすぎである。

 その理由は、大きく二つ。

 一つは、たまたま世話をしようと家にやってきていた女子高生の従姉妹・ヨーコも一緒に異世界に飛ばされていたこと。ブレザーの制服姿の女子高生、しかも、この娘、10年も家から出なかった引きニートを相手に「初恋の人だったし」とか言い出すじゃないか。

 18禁作品なら「この世界のアダムとイブになろう」とばかりに子作りがスタートするはず。いや、18禁じゃなくて手塚治虫先生でも、そうするだろう。こんな恵まれたニート人生+異世界行きが、羨ましくないわけがない。

 もう一つは、異世界だというのにネットが繋がるということである。ネットを活用して、ユージは掲示板にスレ立てして助けを求めるのである。

 この掲示板での名無しさんとのやりとりが「小説家になろう」でも好評を得ていたようだが、文庫版になっても面白さは変わらない。誰もがネタ師扱いしながら、アドバイスらしきものを寄越すやりとりが随所に挿入されることで、コミカルな雰囲気が盛り上がっていく。……ウェブと違って縦書きなのでかえって読みにくいのは事実だけど。

 ともあれ、チートもなく着々とクエスト? が進んでいく堅実さゆえ、誰もが受け入れやすい異世界ものだろう。

 ちなみに「小説家になろう」掲載版よりも、主人公の年齢を5歳若くしてるんだな、さすがに。
(文=是枝了以)

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