19ページ108円の漫画はアリ? ひそかに増えてる「分冊版」漫画とは?

2019.07.08

内容とは別の箇所で酷評されてしまっている『不浄を拭うひと』(ぶんか社)


 ドラマ化し、講談社漫画賞を受賞した漫画『透明なゆりかご』の作者、沖田×華が、自室で亡くなった人の部屋を清掃する「特殊清掃人」の仕事ぶりを描いた漫画『不浄を拭うひと』(ぶんか社)。安易なお涙頂戴にいかずぐいぐい読ませる作品だ。しかしこの漫画、なぜかAmazonのレビューを見ると「酷評」レベルで悪い。「内容」のせいではなく、電子書籍を「分冊版」として、第1話の19ページを108円で売っていることの批判なのだ。この作品に限らず、最近増えつつある「分冊版」の利点と問題について考えたい。

 

■タイトルの後ろに「(分冊版) 【第1話】」とついているので、JARO(日本広告審査機構)案件ではない

 今、連載中の漫画ですでに複数巻を刊行している作品では、電子書籍の1巻はお試し版として無料で読めるようにしているケースとて珍しくない。死ぬほど売れていそうな『ゴールデンカムイ』(野田サトル作、集英社)も一時期そうしていた。

 そのため『不浄を拭うひと』を購入した読者の「108円払ったのに19ページしか読むところがないの?」という憤りは理解できる点もある。さらに表紙と裏表紙と、それぞれの裏面の合計4ページ分があるため、実質漫画が掲載されているのは15ページなのだ。なお、先述の『ゴールデンカムイ』1巻を見ると、漫画が掲載されているページ数は186ページで、電子書籍版は527円で販売されている。

 しかし一方で、『不浄を拭うひと』は嘘はついていない。Amazonや、楽天koboなど電子書籍販売各社のページを見ると「不浄を拭うひと(分冊版) 【第1話】 (本当にあった笑える話) 」と紹介されている。「分冊版」であり、収録しているのは「第1話」だけだと明記はしているのだ。

 しかし『不浄を拭うひと』はネット上の広告バナーでよく紹介されていた。そのためバナーから面白そうだとあまり説明も読まずボタンをポチポチ押していき、いざダウンロードしたら、「え、これで終わり?」となった人は結構いたはずだ。自己責任と言えばそれまでなのだが、この売り方は「分冊版」という売り方がさほどなじみがない状況においては、ちょっと攻めすぎだ。騙し打ちのような目に遭った人は、作品自体にもいい印象を抱けないのではないだろうか。

  少なくとも「分冊版(1話のみ)」であることを作品タイトルよりも前に持ってくれば、この酷評は防げたように思える。さらに言えば、「分冊版」という言葉自体まだなじみのない人が多いのだから「【第1話のみ】不浄を拭うひと  (本当にあった笑える話)」とすればよかったのだ。そうしなかったところには売り方にちょっと「悪意」も感じてしまう。

 だが『不浄を拭うひと』に限らず、電子書籍コミックにおける「分冊版」は見た限りほとんどが「分冊版」であることの記載が冒頭ではなく末尾にあった。タイトルより先に「分冊版」と明示しているケースもあったがかなり少ない。「業界全体でグルになってやがる」状況ともいえる。

 

■一方で「分冊版」がすでに超馴染みの漫画ジャンルも

 図らずも『不浄を拭うひと』で「分冊版」の洗礼を受けた人もいるだろうが、一方で分冊版が普通に受け入れられているジャンルもある。いわゆる「成年コミック」の分野だ。DMMを支えてきた立役者「エロコンテンツ」は今FANZAと看板を変えているが、ここでは「もともと紙の単行本として発行された成年コミックを、電子書籍で各話ごとばら売りする」という「分冊版販売」が普通に行われている。成年漫画は一部シリーズものもあれど、基本一話の読みきりタイプが多く、分冊に向いたジャンルと言える。

 紳士淑女の皆さんはご存知のはずだが、エロには相性というものがある。初めて買う漫画家の場合、表紙の女子のシコリティは高めだが果たしてこれが「実用」に耐えうるか、というときに「1冊丸ごと」買ったあと「『音楽の方向性』が違った……」と布団の中で涙を呑むのは誰しも避けたいところだろう。そういう点でもエロと分冊は相性がいい。

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