描き下ろしやペーパーにも原稿料を払う「少年ジャンプ+」の常識は、業界の常識になるのか

2018.09.23

「少年ジャンプ+」公式サイトより

 出版社ごとのマンガ家の待遇をめぐっては、毎日のように議論が巻き起こるもの。とりわけTwitter上では、ちょっとした発言をきっかけに「○○社は待遇が悪い」「編集者が酷い」などのウワサが、ほぼ真実として広まってしまう。内容の真偽よりもネガティブなものであればあるほど、正義を振りかざしたい人が食いつくのである。

 とはいえ、マンガ家と出版社の関係というのは、一面では決して正常なものとはいえない。例えば、編集者が「原稿が出来たら、持って来て」と発言するのが、それ。

 世の中のだいたいの業種であれば、その時点で発注と受注の関係が成立。たとえ、成果が予想通りでなかったとしても、代金の支払いは求められるはず。だが、マンガに関していえば、いくら原稿を描いてもボツになれば、すべてがタダ働きになるのが当たり前なのである。

 さらに、近年では単行本の発売時に追加した描き下ろしページには、基本的には原稿料は出ない。書店などでの販促用のペーパーなども、ほとんどのケースが同様にタダ働きであることも暴露されている始末。

「メディアミックスが当たり前になって、さまざまな業種の会社と仕事することはありますが“出版社はオカシイ”と言われることも絶えません。例えば、単行本の宣伝がそれ。そもそも、出版はするけれども編集者も営業も、プロモーションなど考えたこともない人が多いのです。せいぜいが、新聞広告くらい。商品をちゃんと売ろうという気概に欠けているように思えます」(出版社社員)

 つまり、描き下ろしページやペーパーがタダ働きになるのは、ケチなのではない。そういうところにカネを使うという概念が存在しないのだ。

 そんな中、これではマズいと動き始めている編集部もある。集英社の「少年ジャンプ+」が、それだ。

 先日、大いに注目された「少年ジャンプ+」で『忘却バッテリー』を連載中のみかわ絵子氏のツイートによれば「少年ジャンプ+」では、描き下ろしやペーパーにも原稿料が発生。さらに、本編の原稿料自体も上がっているのだという。

 マンガ業界の一つの軸でもあるジャンプ系列のこの動きは、業界のあちこちで話題になっている。

「確かに台所事情は厳しいですが、会社なんですから数万円の原稿料が捻出できないわけじゃない。描き下ろしやペーパーでタダ働きさせるのは、いわば怠慢。これまでも知恵の回る編集者は、なんらかの形で捻出をしていたものです。まあ、払うのが業界の常識になってくれると経費の処理もやりやすくなりますね……」(あるマンガ編集者)

 よい作品づくりには、カネを惜しんではならないという常識をみんなが思い出すきっかけになればよいけど……。
(文=是枝了以)

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