人間のドロドロが克明に描かれている深さがよい! 20年あまりの時を経て復活した『新闇狩人』の魅力

2017.04.16

 絶対に読んでおくべき「仕事人系マンガ」の傑作として、全力で薦めたい『新闇狩人』(スクウェア・エニックス)。

 このたび、単行本第2巻も発売になったので、この機会に、ぜひ手に取っておくべきである。

 この作品、もとは原作・絵コンテを担当する、坂口いく氏が「月刊少年ジャンプ」(集英社)にて、1987年から1990年まで連載した作品である。

 坂口氏が執筆した旧シリーズは、普段はマンガ家志望の冴えない高校生・間武士が、闇狩人として法で裁けぬ人の恨みをはらしていく物語である(主な武器は、ステンレスの定規)。

 数多く描かれてきた「仕事人系マンガ」の中で、この作品が凡庸にならなかったのには理由がある。いずれのエピソードも欲望のために、他人を平気で殺す悪。あるいは、悪に泣かされる弱者の姿が克明に描かれた上で、いざ仕事へと物語が進んでいくからである。

 また、主人公も悪を裁く正義ではなく、闇狩人に恨みを抱く敵も登場する。そして、闇狩人の利害が対立することもあれば、返り討ちにされることもある。そんな汚れた闇の世界から足を洗おうとしても、抜け出せない悲しさが、独特の世界を生み出していた。

 今回、この文章を記すにあたって再度読み直してみたのだが、第1話のターゲットは借金のカタに焼身自殺に見せかけて人を殺す暴力団と、非常にスタンダードなもの。ところが第2話では、自分がスターになるために邪魔な人物を次々と殺しまくる女性アイドルと、急にトンデモな悪が現れる。

 しかも、足を洗った闇狩人であるマネジャーから殺しの技術もすべて盗んだという設定。これ以降、スタンダードな悪ばかりではなく、時に常識の斜め上をいく敵を相手に仕事をこなしていくエピソードが、絶妙なテンポで挿入されることで、飽きの来ない作品となっていった。

 また、中途から半ばレギュラーとして登場する我竜京介(表の顔はトレジャーハンター。武器はけん玉)、三枝将(表の顔は人気歌手。武器はギターピック)と、時には組みながらも、決して馴れ合う仲間とならない姿が深い人間ドラマを生み出していた。

 そんな坂口氏が原作・絵コンテにまわり、細川真義氏が作画を担当した新シリーズ。新たな主人公・士堂瑠璃は、マンガ家志望の巨乳眼鏡っ子。だが、眼鏡を外した彼女はカラス口を武器に依頼をこなす闇狩人なのである。

 読者の求めるものに応えて、極めて現代的なスタイルの作品へと転換されたかといえば、そうではない。旧シリーズから続く、殺人によって汚れているゆえの、まともな幸せを得ることを改めた悲しさ。悪を葬っても、まったく気持ちは晴れない人間の複雑なドラマは、より深くなっている。

 とりわけ、第2巻になり、その部分は濃厚だ。

 瑠璃のアシスタント先の師匠として、早々と登場した旧主人公の間。すでに人気のマンガ家となってもなお、間は汚れた自分を自覚せざるを得ない。

 彼自身の口から語られるのは、十数年ぶりとなる三枝との邂逅だ。

 人気歌手となった三枝は結婚を機に「人を殺り続ける手で子どもは育てられない」と足を洗ったことを語る。それに応える形で「俺はとても家庭を持つ気にはならない」と応える間。だが、三枝は「子どもが人殺しの子といわれてはたまらないと、結局離婚した」と語るのである。

 旧シリーズでも語られていた、汚れ仕事から手を引きたくても自分たちがやらなければならないという覚悟。そして、自分たちもいつかは、殺られてしまうのではないかという恐怖心の描写は、より深くなっている。

 この、闇狩人たちに共通する「技術は一流だけれども、決して最強ではない」等身大の人間こそが、作品の深さの源泉である。

 おまけに旧シリーズで、三枝はアイドルと相思相愛になったことで仕事から手を引こうとしている姿が描かれていたゆえに「離婚した」の一言は重い。

 人間の業というものを感じたいなら、必ず読んでおくべき作品であろう。
(文=是枝了以)

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