『堂々とアイドル推してもいいですか?』アイドルヲタクの“けもの道”をセキララに描く!?

2016.12.12

「月刊少年エース」公式サイトより。

 長いことアイドルヲタクをやっているので、大概のヲタクの気持ちはわかるつもりでいる。

 アイドルに本気で恋をしてしまう「ガチ恋」や、その音楽を純粋に愛する「楽曲派」など、割合の大小はあるにせよ、私にもその側面は確かにある。

 しかし、実は理解できないタイプのヲタクがいる。それが、結婚をし子どもがいるにもかかわらずアイドルにハマった人たちである。

 なぜ理解できないか、その理由は簡単だ。私自身、気付いたときにはもうアイドルヲタクになっていたし、愛する女性と結婚をして、さらに子どもまでもうけているという、いわゆる「リア充」の経験がないからだ。

 しかし、最近そのようなアイドルヲタクが増えているのは確かである。現場で知り合うヲタクにも妻帯者はいるし、昔からの知り合いでも「子どもも大きくなったので」と、改めてアイドル現場に通うようになった人もいる。

「月刊少年エース」(角川書店)1月号から連載が始まった『堂々とアイドル推してもいいですか?』(作:小城徹也)は、そんな“理解できないタイプ”のアイドルヲタクを描いたマンガである。

 主人公は緒上崇(おがみ・たかし)、年齢は明らかになっていないが、30代前半といったところ。妻と幼い娘の3人で暮らしている。

 彼が推しているのは「あらたな☆チューズ」(通称:あらチュー)という5人組のアイドルグループ。その人数構成や、ファンを「荒武士(あらぶし)」と呼んでいることなどから、モデルはももいろクローバーZ(彼女らのファンは「モノノフ(武士)」と呼ばれている)ではないかと思われる。

 緒上は、もともとあらチューのファンであったが、結婚後に他界(ファンをやめること)。しかし、あらチューへの思いは捨てきれず、妻に内緒で現場復帰している。作品中、その行動は“けもの道”であると述べられている。

“けもの道”との言葉通り、その日常は困難を極める。

 ライブやイベントには「仕事」と偽って出かけ、購入したグッズは家族の目の届かないところに隠す。メンバーの記事が出ている雑誌も家の外でチェックするしかない。

 第1話では、緒上が夫婦で荒武士となった知り合いを羨ましく思い、自分の妻にその魅力をわかってもらおうと画策する。しかし、妻があまりにもドルヲタに嫌悪感をしめすため、結局言い出せずに終わってしまう。

 実際に経験したら辛いことだろうが、もちろん作品の中ではそれらの苦労もコミカルに描かれている。

 私自身、あまり周囲には気を使うことなくアイドルヲタクライフを満喫しているが、もしかすると、アイドルに限らず、楽しみや快楽というものは、どこかに“背徳感”が伴っているほうが、高まるのかもしれない。その意味で、「家族にバレてはいけない」という状況は、アイドルに対する気持ちが増幅され、“けもの道”の甘い魅力にも浸ることができるのだろう。

 マンガの中では、ドルヲタ用語の説明もふんだんに入れられ、これからアイドルの現場に行ってみたいという入門書としても使えそうだ。また、ライブでのシーンや、ヲタク同士で飲み会を楽しんでいるところなどは、「あー、あるある」と言ってしまうような描写が多く、ヲタクが読んでも楽しめることだろう。

 何より、これまでヲタクといえば、『電車男』に代表されるような、恋人もいない若者(もしくは中年)が主人公になることが多かった。しかし、本作は妻や子どものいるドルヲタにスポットを当てたところが画期的で、最近のリアリティに沿った作品であるともいえるだろう。

 次回以降、この“けもの道”はどんな展開を見せるのか、果たして「ある理由」としか語られなかった、緒上が現場復帰した原因はなんなのか、など興味は尽きない。

 今後、主人公はどのような運命をたどるのか、どんなヲタクエピソードが待っているのか、楽しみにしたいと思う。
(文=プレヤード)

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