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【劇場アニメレビュー】アニメファン以外にも絶対見てもらいたい!『風立ちぬ』『火垂るの墓』を凌駕する説得力『この世界の片隅に』

2016.11.12

 その中で空から降りてくる爆弾、機銃掃射する軍用機などを地上から見据え、不発弾を装った時限爆弾や、爆弾の破片が一気に散開していくあたりの画から醸し出される恐怖と、それゆえの美しさから、それこそ『地獄の黙示録』の初公開時「戦争ほど美しいものはない。そうでなければこれほど人間が愚かな戦争を続けるわけがない」と訴えたフランシス・F・コッポラ監督の言葉を思い出した。

 極めつけは、呉から見える原爆のキノコ雲の醜悪なまでに美しいショットで、こういった描写はやはり軍事メカに精通し、愛着を持ちながら、それが人間にいかなる惨禍をもたらすかを熟知した者でしか描出し得ない秀逸なものであり、それこそ個人的には戦争は嫌いだがゼロ戦を愛してやまない矛盾を吐露した宮崎駿監督の『風立ちぬ』(13年)や、反戦アニメの代名詞たる高畑勲監督の『火垂るの墓』(88年)を凌駕するほどの映画的説得力に対して、もうひれ伏するしかないほどの衝撃を受けた次第である。

 しかし本作は、感情的に拳を振り上げて絶叫する反戦映画ではないし(その意味では、とかくこの手の作品を嫌いがちな軍事マニアこそ見ておくべき作品でもある。「厭戦は感情、反戦は論理」と説いた戦争映画評論の大家・増淵健の言葉を久々に思い出した)、いつの時代も人の営みに変わりはなく、ただし、ほんのちょっと時をさかのぼるだけでそれは人の心に優しく触れるファンタジーになり得ることを慎ましやかに描いたものであり、イデオロギーとは無縁の人間讃歌である。

 とはいえ、アニメファンであろうが映画ファンだろうが何であろうが、この映画は絶対に見ておいたほうがいい。老若男女、今の時代を生きるすべての人々に、きっと何某かの啓蒙を与えてくれることは必至。真に優れたエンタテインメントはそういうものである。
(文・増當竜也)

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