デビュー25周年、宍戸留美の現在地 フリーランスになって「よかったことしかない」

2016.11.05

 1990年春、私は雑誌に載っていた記事を読んで、一人の少女に強く興味を引かれた。彼女の名前は宍戸留美

 彼女は、アイドルとなり、フリーランスのアーティストとなり、声優になり、フォトグラファーにもなっていった。

 そして今年8月、クラウドファンディングによって集まった資金で、活動25周年記念CDと写真集を発売。その経緯と反響を中心に、これまで26年間の活動について、ファン目線でたっぷり話を聞かせていただいた。

──8月に、クラウドファンディングで作ったCDと写真集を発売しましたが、反響はいかがですか?

宍戸 そうですね。去年のクラウドファンディングの資金で広告を出させていただいたんですが、「やっぱり今、雑誌は厳しいんだな」というのをすごく感じました。声優雑誌に載せたのですが、リアクションがひとつもなかったので。声優雑誌は、若い声優さんのフィールドなのかなと思いましたね。

──今、宍戸さんのイベントに来るファンの方は、やはり声優時代からのファンが多いのでしょうか?

宍戸 それが、地方に行くと面白い現象が起きていて、中学2年生の女の子からOLさん、そしてアイドル時代からのファンの方などが集まっていて、いったい何の集まりかわからなくなっています(笑)。私はそこでパフォーマンスをするので、常にいろんな自分を出せるようにしています。

──それでは、MCとかでも大変ですね。

宍戸 だから、余計研ぎ澄まされるというか、みんなに伝わるように意識しています。

──今回、費用をクラウドファンディングにした理由はなんだったのでしょう?

宍戸 デビューして25年だったので、ただ記念ライブなどをするだけでは広がりがないなと思って、クラウドファンディングを使うことを考えました。また、同世代の人から、「親に家を建ててあげた」とか「高層マンションに住んでる」というような話を聞いて、「今まで私は、それが全部CDの制作費になってたんだなぁ」と思ったりしたことも理由のひとつです。

──結果的に294人のコレクターから430万円ほどが集まりました。使い道の内訳を細かく開示していますが、なかなかここまでオープンにされている方は少ないですよね?

宍戸 自分が投資する側だったとして、何に使われるか謎のままだったらお金出したくないですよね。「このお金で焼肉食べられたらどうしよう」とか思っちゃう(笑)。だから、ちゃんと出してみようと思いました。

──追加で募集したプロモーション費用の方も、明細は出されるんでしょうか?

宍戸 はい。どこの(旅行)パックを使って、ホテル代がいくらで、まで出そうと思います。今、細かくメモしてます。

──「インディーズで活動しているミュージシャンやアイドルにとって『普通のこと』になったらいい」と書かれていますが、やはり後に続く人のためにというのも大きな動機ですか?

宍戸 そうですね。今はもう、いい年齢になってきたので、そのことしかないぐらいの気持ちです。後に続く若い人たちがいればいいなと思います。

──そうすると、ご自身で若い人たちを育てたい、というな意識もあるんでしょうか?

宍戸 いや、それはないです(笑)。まずは、自分がなんとかならないと。

──なるほど(笑)。これまでの経験を活かして前に進みたいということですね。

宍戸 いろいろやってきたことがごちゃごちゃになっているので、「それらをまとめたいな」という気持ちがあります。「歌だけ」とか「声優だけ」では食べられなかったので、いろんな発信をしてきました。「Oil in Life」という番組の司会や、サイゾーでの連載など。これは、自分から発信して見つけてもらうためのものです。

──「発信」ということで言うと、Twitterの活用も多くされてますよね。

宍戸 Twitterに出会う前には、毎日泣いてるほどでした(笑)。いろんな人とお話ができるし、仕事の依頼が来ることもありますね。

──リツイートやリプライも多いですよね。

宍戸 それが仕事だと思ってます(笑)。

──クラウドファンディングの業者は、まだ少ないんでしょうか?

宍戸 いえ、かなり多くなっているんですが、ノウハウがちゃんとしないままで、潰れたり、達成しない人が多いところがあったりして、かわいそうだなと思います。見ていて「これじゃ入れないよな」っていう人も多いですよね。具体的なことや目的を書かないまま、目標金額を提示していたりして。例えば、人件費にしても人数が何人とか、宿泊費もキチンと書くとかしないと、いくらファンでも出さないですね。

──すごくメジャーな人だったら、出すかもしれませんね。

宍戸 今は、事務所に所属してても、アルバムの制作費はクラウドファンディングで稼げって言われている人もいるみたいで。「それって事務所の意味あるのかな?」って思っちゃいます。

──そうですね。何かあったときには守ってくれるんでしょうけど……。

宍戸 最近は、何かあっても守らないところも多いですよね。だから、自分の身は自分で守るしかない。自分でTwitterに書けば、広げることもできますから。

──今回の作品についてもお伺いしたいのですが、CDのクレジットに全曲日付が入ってますよね。これは収録をした日ということでしょうか?

宍戸 はい、そうです。

──一番古いのが「早く抱いて」で、2010年。そこから、今回のアルバムを出すまでの間に『CHERBOURG→BRIGHTON』『女』『Ruminescence』という三部作を発表されています。この『東京幻想曲集』は、それらのアルバムとはまた違った流れで作られているんでしょうか?

宍戸 私は、一時下北沢に住んでいて、スタジオがあるのでいつでもレコーディングできるようにしていました。そのときに配信のみで出していたものや、アルバムのコンセプトから外れてしまっていた曲をまとめたいな、と思い作ったのが今回のアルバムです。

──9曲中4曲を宍戸さんが作詞されています。宍戸さんの詞の世界は、どこか無国籍な印象を受けるのですが、何か意識してらっしゃいますか?

宍戸 それは多分、アレンジとか楽器の影響が大きいと思います。あとは、30代にひとり旅をたくさんして、そこで知った価値観もありますね。先日、外国人の女の子に曲を聴いてもらったら「カーラ・ブルーニみたい」と言われました。大好きだったので、うれしかったです。

──写真集も同時に出されていますが、紙質などにもこだわられていますよね。

宍戸 どんな形にするか、いろいろ案があったんですが、こだわってみました。だいぶ予算はオーバーしてしまいましたが(笑)。

──写真の選定もご自身でやられたんですか?

宍戸 はい。何万枚という写真の中から選びました。ずっと同じ人(増田賢一氏)が撮ってくれているというのは、例がないと思います。10年ぐらいならまだしも、25年ですからね。

──今回は25周年ということで、CDと写真集を作られましたが、今後何か作ってみたいものはありますか?

宍戸 このクラウドファンディングは、毎年のルーティンにしていきたいと思っています。あとは、アニメのキャラクターとして歌った曲も別々のレコード会社から出ているので、それをセルフカバーしてCDにしたいですね。

──先日、元アイドルの田中陽子さんとライブをされましたが、当時仲が良かった人とは今でもお付き合いがあるんですか?

宍戸 ありますね。今活躍している人以外にも、会ったりする人は多いです。

──人とのつながりで言うと、今までたくさんの方とユニット活動をされたりしています。どういう経緯でユニットを組まれることが多いんでしょうか?

宍戸 きっかけは、ライブを一緒にやった時にコラボをしたりして、そこから始まることは多いですね。

──先日、森下純菜さんと一緒にライブをされましたが、彼女の印象はいかがですか?

宍戸 彼女とは一緒にやっていて楽しいですし、「こんなすごい人いるよ」っていうのも伝えたいです。もう「アイドルの鑑」じゃないですか。次にやる大阪でのセットリストも作っていますが、とても楽しいです。衣装も振りも一生懸命頑張っています。

■「元祖地下アイドル」と呼ばれて


──フリーになった頃のお話も伺いたいのですが、宍戸さんは「元祖地下アイドル」とも言われますよね。当時はそのことを意識してましたか?

宍戸 ライブハウスで歌うようになったときは、もう自分がアイドルとは思っていなかったので、普通に歌手として歌ってる意識でしたね。

──ずっとフリーでやってきたわけですが、一人でやることのメリットはどんなところでしょう?

宍戸 とにかくよかったことしかないです。番組とか作品のオファーが来たときでも、マネジャーさんや事務所の意向を気にすることなく、ダイレクトに内容をやりとりできますし、直接どういうものが求められているか、仕事の内容もわかるので。

──それはもう、18歳でフリーランスになった当初から感じていましたか?

宍戸 でも、最初の頃は騙されたりもしてましたよ。レギュラーで番組やったのに、ギャラを支払ってもらえなかったり、営業をやってもお金がもらえなかったり。

──いろいろ苦労もされてるんですね。今、フリーで活動されているアイドルなどもいますが、それについてはどう思いますか?

宍戸 いや、危ないですよね。もう学校始めようかと思いますよ。

──学校?

宍戸 フリーランスアイドルについて教える学校。お客さんとの接し方とか。例えば、一人でお客さんと話していて、それと並行して物販でお金のやり取りをしたり。経験のない若い子には無理ですよ。もう、その学校を卒業した人しか活動できないようにしてもいいくらい。

──今はいろんな売り方があって、歌手のありかたにもさまざまな意見が出ていますが、そのあたりで何か感じていることはありますか?

宍戸 ライブのパフォーマンスにしても、料金に見合うだけのことをしているかどうかは大事ですよね。きちんとした芸を見せてお金をいただくというのが正しいと思います。その努力なしに、物販だけに力を入れたりするのはちょっと違うかなと。確かに「元祖地下アイドル」と言われたりしますが、そこと同じジャンルに見られるのは、ちょっと心外ですね。

──今でも「アイドル」と言われることについてはいかがでしょう?

宍戸 「アイドル」という言葉が一人歩きしていて、そういうくくりにされてしまうことはありますね。例えば「長嶋茂雄」さんとか「ビートルズ」とかを「アイドル」と言うのであればうれしいですが、いわゆる「ビジネスとしての女性アイドル」という意味では、私はアイドルではないです。アイドルというのは、若い人の一瞬の輝きを呼ぶのだと思っているので。

──なるほど。アイドル時代から含めてですが、宍戸さんのファンの人は長く応援してる人が多いですよね。

宍戸 そうですね。この間ライブで仙台に行ってきたんですが、20人ぐらい来てくださいって、すごく一体感のあるライブができました。このくらいの人数だと、一人ひとりと熱く会話もできます。とても楽しかったし、充実していました。

──地方のイベントだと、どのくらい人が集まるかわからないので、不安な部分はありませんか?

宍戸 クラウドファンディングでもそうですが、やる前から「失敗したらどうしよう」とかは全く考えないんですよ(笑)。かっこつける必要もないし、失敗したら失敗したで、そこで人生が終わるわけでもないですしね。別に恥ずかしいことではないですから。

──CDが売れない時代といわれていますが、プロモーションなどについてはどう考えていますか?

宍戸 例えばテレビの「あの人は今」のようなものに出ても、それでCDが売れることはないと思います。「ああ、そんな人いたなぁ」という感想だけで。やはりお店で歌って、聴いてもらうというのが一番ですね。生で触れ合うとか、生でパフォーマンスを見てもらうというのがいいなぁと思います。その点は、昔のデパートの屋上でのアイドルイベントと変わらないですよね。

──今、歌手や声優などいろいろなことをされていますが、今後やってみたいことはありますか?

宍戸 プラネタリウムの音声ガイドや、美術館のガイドとかやってみたいです。ああいうのって、公共の場ですけど、一対一で聴いてもらえるじゃないですか。それがとても楽しいし、作品が倍に広がる感じがします。また、声優としてはディズニーや外国映画の吹き替え、ナレーションなどもやってみたいです。

■「もし男に生まれていたら……」25年前の意外な人選

──最後に、唐突なのですが、もし男に生まれてたら、どんな人になっていたと思いますか?

宍戸 そうですねぇ、どうでしょう。あまり性別を意識してないので、思いつかないですね。

──なるほど。実は私が最初に宍戸さんを好きになったのは、デビュー前にある雑誌で同じ質問を受けて「宮崎勤みたいな人」と答えていたのを見てからなんですよ。

宍戸 あははは(笑)。何を思ってたんだろう! デビュー前ですよね、15~6才……全然覚えてない。注目されたかったのかなぁ。

──今日はこの質問ができて満足です(笑)。ありがとうございました。

「オリコンウィークリー」1990年4月9日号

 18歳でフリーとなり、セルフプロデュースで活動してきた彼女。インタビューでの印象も「美しくやわらかな女性」といったものだった。そんな中に、多くの才能と強さを秘め、私たちを楽しませてくれるのが、何よりの魅力だろう。

 今後の活動に期待しつつ、いつまでも彼女の生み出す世界を感じていたいと思った。
(取材・文=プレヤード)

●宍戸留美(ししどるみ)
歌手、声優、役者、写真など様々な表現分野で活動中。
アイスクリームのオーディションで8万人の中からグランプリ受賞。1990年にCBSソニーから『コズミック・ランデブー』でデビュー。18歳でフリーアイドルとなって現在のインディーアイドルブームの先陣となる。1995年自主制作アルバム『SET ME FREE』を発売後『ニューヨーク・タイムズ』紙上で“CDを探し求める価値のある日本人アーティスト”として評さた。 声優では「ご近所物語」幸田実果子役「おジャ魔女どれみ」瀬川おんぷ役「はなかっぱ」ももかっぱ役等でも活躍中!
デビュー20周年記念のUstreamライブでは世界一を獲得!昨年、25周年記念プロジェクトで制作した作品、CD「東京幻想曲集」写真集「東京幻想写真集」同時発売中!

■11/21(月)
「ひとりひとりにサリュー!vol.10~誕生日とクリスマスの間、世界編」
出演:宍戸留美
ゲスト:ナタリー、レイラ レイン、他
時間:開場 18時半/開演 19時
料金:前売り¥3,500(1D別)/当日¥4,000(1D別)
予約詳細:
http://rumi-shishido.com

■11/26(土)
タワーレコード難波店、5階イベントスペースにて18時~『東京幻想曲集』&『東京幻想写真集』のインストアライブ

■11/27(日)
「ルンルン&純菜姫ツーマンライブ大阪~秋冬コレクション~」南堀江ビレボア 12時~ 特別ゲスト:中川雅子

公式HP: http://rumi-shishido.com/
ブログ: http://lineblog.me/sundaliru/
Twitter: @RumiShishido

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