キモヲタ相手にゃ手抜きでオッケー!? 人気タイトルの看板を凌辱する世紀の駄本『追想 -「艦これ」艦娘と振り返る-』

2016.06.23

 たとえ低価格であっても、読者を愚弄するような本作りは許せない。

 発売前から、これまで史実との密接なリンクを避けていた運営サイドが方針を転換したのかと話題になっていた『追想 -「艦これ」艦娘と振り返る-』(角川文庫)。

 いったいどんな内容になるのかと、筆者も発売前から大いに期待をしていた。そして、届いたのはゲーム本編をプレイしている提督の皆さんにはおなじみ・大淀の描き下ろしイラストに、史実の艦艇の写真を配置したもの。

 全235ページは、概説の後に「栗田艦隊」「西村艦隊」「志摩艦隊」「小沢艦隊」の4部構成。すなわち、レイテ沖海戦を軸にページを構成し、艦娘のイラストと写真とで構成されている。

 それぞれの艦娘のイラストには、セリフと共に史実のデータが簡易に記されている。正直なところ、数多く出版されている戦史関連の書籍を読んだ人にとって目新しい内容は何もない。一部に米博物館が所蔵する写真が使用されているが、それを除けば一度ならずも見たことのある写真ばかりである。

 ゆえに、ゲームを契機として史実に興味を持った人にとっては「ウィキペディア」の記述よりも薄い……わずか4行あまりの史実解説は、まったく物足りない。ただ、表紙を飾っている大淀は、ほかにも新規絵があるので、彼女を嫁にしている提督、あるいは眼鏡スキーは歓喜するのではないかと思う。

 また、簡潔な解説であるために、ゲームをきっかけにはじめて戦史に興味を持った人には、入門書としての価値もあるかもしれない。

 しかし、この本は最悪である。ページをめくるたびに、イライラ感が募っていく。

 その理由は、本を開けば数ページでわかる。

 ページのレイアウトがおかしいのである。

 艦艇の写真の多くは横長(横位置)で撮影されている。それに対して、本は縦長である。

 これまで、さまざまな本を読んできたが、横長の写真を掲載する場合には見開き2ページを使って掲載する。あるいは、縮小してページの上段か下段に掲載するスタイルが多かった。

 ところが、この本はすべての写真を横のまま配置しているのである。つまり、写真のページになるたびに、たびたび本を横にしなければならないのだ。

 一冊の本を読むにあたって、本を横にしたり縦にしたりしなければならない。その行為のたびに読者は没入していた本の世界から、現実へと引き戻されるのである。

 難しいことをいう必要はない。単に「雑なつくり」の本なのである。

 この本を編集している「艦これ」編集部には、読者を満足させようという意志などみじんも感じられない。「大淀の新規絵もあるし、萌え豚どもはブヒブヒいいながら買うだろ」。いやいや、そんな意識もなくて外注デザイナーに素材を渡して「次に割のいい仕事振るから、今回は30万円くらいでやってよ~」とかと、テキトーに作らせているんじゃなかろうか。

 奥付には「ファミ通コミッククリア」編集長の比企利至氏が「企画」としてクレジットされているわけだが、編集長自ら駄本を出すのに何も躊躇しないあたり、出版社としてのやる気を疑う。

 さらに最悪なことに、一応は角川文庫レーベルのため創業者・角川源義の発刊の辞も掲載されている。角川文庫のすべての本に掲げられている、この文章には次のような一文がある。

「この文庫を角川書店の栄えある事業として、今後永久に継続発展せしめ、学芸と教養との殿堂として大成せんこと期待したい」

 この本、公式が制作する作品と史実をつなぐ内容であるために発売前から「艦これ史観本」という呼称もされていた。公式が元ネタである歴史をどう捉えているのかを示す内容が含まれていることへの興味が生み出したものだ。

 だが、実際には「艦これ史観」などなかった。編集者には教養の欠片もなかったのだ。

 あるのは、驕りだけである。

 これまでも、キャラのイラスト集とか、妙な本も多かった角川文庫だけど、ちゃんとお金を払ってくれる読者に対する敬意はあった。しかし、この本から感じるのは、知性も教養もなくオタク系の仕事に従事できている自分を、何かを成し遂げたように勘違いしているキモヲタ編集者が、キモヲタを見下しつつ本をつくっている姿である。

 真にこの本の感想は一言で片付けられる。

 金返せ!

(文=三途川昇天)

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