“正義”など皆無…マンガ『ホークウッド』が描くリアルな百年戦争

2014.12.12

ホークウッド(KADOKAWAメディアファクトリー/トミィ大塚)第6巻。

“華麗な騎士道”などどこ吹く風といった戦争史劇。そんな言葉がよく似合うトミィ大塚のマンガ『ホークウッド』(KADOKAWAメディアファクトリー)第6巻が、11月22日に発売となった。

 この作品は、日本人にはあまり馴染みのない英仏百年戦争を舞台にしたリアルな史劇である。主人公であるホークウッドは、百年戦争序盤に活躍した実在の傭兵隊長。彼を中心に、雇い主であるエドワード黒太子やその父・エドワード三世など、数多の歴史上の人物を絡めながら物語は進んでいく。

 トミィ大塚の構成力ゆえか、物語は丁寧に進んでいて、“百年戦争=ジャンヌ・ダルク”くらいしか知識のない人でも、すんなりと物語世界に入っていくことができる。少々解説すると、物語の舞台は百年戦争序盤。そのため、ジャンヌ・ダルクの登場よりもずっと前の時代である。今回の戦役が始まったのが1346年7月で、第6巻は8月23日頃の出来事だと推定される。

 つまり、6巻までで進んだ時間はだいたい一カ月半くらい……。この間にホークウッドは、今回が初陣であるエドワード黒太子に実力を認められながらもライバル心を燃やされたり、フランス軍にボロ負けして雇用契約を解除された後、策略をめぐらせて員数を集めて復帰したり……えらく濃厚な毎日が続いている。ある意味、うらやましい人生だ。

 そして、この物語がリアルさを醸し出す理由は、なんといっても“正義”が存在しないことだ。イングランドもフランスも、それぞれに自身の正当性を主張する。しかし、戦って報酬を得る傭兵たちにとっては、そんなことまったくの無価値である。さらに、フランス側の諸侯も王への忠誠心など希薄で、それぞれ血の気配や金銭、名誉欲を求めて参集していたりする。

 そんな世界なので、主人公も当然“正義”ではない。同盟を結んだ傭兵団は裏切られる前に裏切る。食料が足りないとなれば、村を襲って略奪。さらに、傭兵団には売春婦も従軍する……。

 まさに弱肉強食の世界で繰り広げられる戦乱の中で、そこには時代の変化が訪れようとしている。「騎士の時代」の終焉である。第5巻にて、フランス側のジェノバ人傭兵隊長オドネ・ドーリア(これも実在の人物だそう)はクロスボウで重装騎兵を一蹴し、「騎士の時代」が終わったことを告げる。

 そして第6巻。「騎士道」を口にしながら味方を犠牲にすることもいとわないフランス側・聖シャルトル騎士団によって、ホークウッドは絶体絶命のピンチに陥ってしまう。ところが、ホークウッドはイングランド軍の行き先を教えて、窮地を切り抜ける。「イングランド軍が決戦を避けて移動を重ね、小競り合いばかりでは稼ぎにならない」と傭兵の都合を述べ、決戦で大きな手柄を立てたい騎士のプライドをくすぐる頭脳戦は、大きな見どころである。

 同じ頃、決戦を求めるエドワード黒太子の怒りに父・エドワード三世は「その言葉を待っておったわ」と言うのであった。第1巻でフランスに上陸してから、北フランスをウロウロとするばかりのイングランド軍だったが、これは傘下の諸侯たちの「獅子の心」を奮い立たせるためのエドワード三世の仕掛けだったということが明かされる。

 というわけで、この6巻までは壮大な前振りだったようで、いよいよ次巻では百年戦争初期の決戦であるクレシーの戦いへと突入することになりそうだ。クレシーの戦いは、貴族で構成される重装歩兵が平民主体の長弓兵によってなぎ倒され、騎士の優位性が崩れ去ったという戦争史上でも重要な戦い。しかし、イングランド軍側はそのことをまだ認めようとはしていない。エドワード黒太子をはじめ騎士たちは、いまだに騎士の優位性を主張し、弓を使う雑兵は騎馬の突進で潰走すると信じているのだから……。

 果たして、物語の中ではイングランド軍がいかにして長弓兵の優位性を認め、勝利へと到るのか、ものすごく期待している。

 ちなみに、史実通りだとクレシーの戦いが終わったら10年くらい漫然と戦いが続くだけなのだが……いったい物語がどのように続いていくのかも興味深い。
(文/ビーラー・ホラ)

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