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編集者批判から金銭事情の暴露まで…ブログやツイッターの出現で変化するマンガ家と編集者の“力関係”

2014.02.04

【1】作家が意図しない形で編集部が介入してくる

 上述した渡瀬悠宇さんや新條まゆさんをはじめ、編集者の独断によりストーリー・セリフ・キャラクター名・設定までさまざまな改変をされた不満をネットで吐露する漫画家は多い。“勝手な改変”とは少し違うかもしれないが、『銃夢』で知られる木城ゆきとさんなどは、数カ所のセリフ表記で編集部と折り合いつかず、集英社から講談社へ移籍する事態にまで発展した(外部参照)。また、大ヒット作『テルマエ・ロマエ』のヤマザキマリさんも、中盤以降に出てきたヒロインキャラについて、編集長との意見の相違をやんわりとブログ上で回想している(外部参照)。ヤマザキさんといえば、2013年に『テルマエ』映画化の原作使用料に対する説明不備などでエンターブレインの姿勢を批判したことでも有名だが、それ以前にも作品の方向性でいろいろ思うところがあったのだろうと推察できる。

【2】金銭的に冷遇される

 デリケートな問題のためか、マンガ家が直接不満を述べた例はネット上を調べてもあまり多くない。アニメ化もされた『神のみぞ知るセカイ』(小学館)がヒットする前の若木民喜さんが“貯金残高が1万円を切った”とブログにつづったケースや、『戦勇。』(集英社)で知られる春原ロビンソンさんが(報酬額が振込手数料を下回ったため)マイナス金額になった報酬明細の画像をツイッター上で公開したケースなど散発的。しかしこれらは編集部批判ではなく、自虐的なニュアンスが強い。例外なのは権利関係の暴露話で、2011年に『海猿』(小学館)の作者である佐藤秀峰さんが「映画の2作目が公開された時、もらったお金は250万円くらいだった。」と明かしたツイートは話題を呼び、出版業界の搾取体質に一般読者の関心を引きつけるきっかけとなった。

 ブログやツイッター、SNSの出現によって、作家と出版社の関係をめぐる問題は広く取り沙汰されるようになった。さらに、こうしたサービスは“出版社への反撃”や“業界への問題提起”ツールとしてだけではなく、マンガ家がファンへ直接的に自身と自身の作品を売り込む“セルフプロデュース”ツールとしても大きな役目を果たしている。新刊発売やサイン会を告知する場として、日常のあれこれや創作論を語る場として、落書きやラフ画を掲載するファンサービスの場として……ITツールはとても有用に機能している。

 自分自身の言葉ではっきりとファンに心情を伝え、編集者から理不尽な扱いを受ければ公表できるツールをマンガ家が持ちはじめたのは、一部の出版社にとっては面白くない事態だろう。しかし「週刊少年サンデー」を例にとれば、今の発行部数はピーク時(1983年)の1/4以下、雷句誠さんの訴訟でイメージダウンした2008年と比較しても約40%の落ち込みを見せている。これは出版市場全体の縮小より、はるかに大きな下げ幅だ。クリエイターと出版社との“パワーバランス”が着実に変わりつつある現在、描き手の気持ちを軽視するような出版社には、今後さらなるしっぺ返しが待っているかもしれない。
(文/浜田六郎)

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