薔薇族の人びと ~楯四郎編 「ホモの敵はホモ」という嫌な言葉

薔薇族の人びと ~楯四郎編 「ホモの敵はホモ」という嫌な言葉の画像1『薔薇族』1994年・No258

 楯四郎さん、庶民的で決して偉ぶらない気さくな人だった。ぼくも何度もお会いしているし、わが家の座敷で多くの読者とおしゃべりする会にも参加してくれた。お堅いNHKのアナウンサーの仕事をされているにもかかわらず、ハッテン場にも出入りしたりしているようだった。

 平成6年7月発行の『薔薇族』1994年・No258に楯さんは、俵兵藏のペンネームで「迫真・ドキュメント・恐喝者!=男は周到な用意をしていきなり現れた」と題してご自身の体験を書かれている。

 かつてどれだけの同性愛者たちが、「家族にバラすぞ、会社にバラすぞ! と脅されて金をとられ、会社をやめたり、離婚するなど悲惨な目にあってきたことか。『薔薇族』33年の歴史は、それらの「恐喝者」との戦いの歴史でもあった。創刊まもなくして、文通欄を悪用して、相手を脅す奴が現われてこれには参ってしまった。

 それからも、いろんな手口の恐喝者は次々と現われ続けたから、恐喝の話だけでも一冊の本になってしまうだろう。「ホモの敵はホモ」という、なんとも言えない言葉がある。これはホモを脅す人は、ホモの人だということだ。ヤクザ屋さんみたいな人が、ホモの人を脅すというようなことはまずない。それはホモの人がそんな弱みを持っていることを知らないからだ。自分がホモだから、脅されたらびくつくということを百も承知しているから、ホモの人を脅して金をまきあげるのだ。


「あなたのことは、すべて調べがついています」

――きたな、と私はやや身がまえて男の目を見た。

「先日、大阪でエイズ患者が発見されました。その患者の関連から、あなたの名前が出たんです」

「その人とぼくとは接触があったんでしょうか?」

「接触はありました。でも心配はいりません。接触したのは彼が発病する以前でしたから」

 いきなりショックを与えておいて、すぐさまそれをやわらげるやり口である。が、これは男の期待している効果とは逆に私の不信感と警戒心を強めた。

 今から2年前、平成4年・4月11日、晴れた土曜日の午後零時40分ごろのことである。

 恐喝者はある日、いきなり訪ねる。

 結論を先に言えば、私と男の間に金銭の授受はなく、男は恐喝に失敗したわけだが、私はこれを自分の手柄話として書くわけではない。実際、男とのやりとりの間、私は自分の中であれこれと煩悶もし、いっそ金を出してしまおうかと思う俊寛もあったのである。

 恐喝者がいきなり現われるのは相手に猶予を与えず、一気に決着しようともくろむためだが、私の場合、男はやや入りくんだ手口で迫ってきた。その経緯をできるだけ正確に記録しながら、私の場合の報告とするつもりである。


 恐喝されたことを文章に書いた人は楯さんだけだ。警察にも何度もお願いしたことがあったが、じつによく応援してくれて犯人をつかまえてくれた。今だに年賀状をやりとりしている刑事さんが、おひとりだけいる。

 楯さんの文章長くて全文を紹介できないが犯人を撃退したのだから見事だった。
(文-伊藤文學)

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