“生涯ドルヲタ”ライターの「アイドル深夜徘徊」vol.45

【書評】不思議な同居生活の関係性を読み解く――大木亜希子著『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』

『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)

  元アイドルのライター、大木亜希子の書いた『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)が話題だ。

 著者の大木氏は、2010年からアイドルグループ「SDN48」のメンバーとして活動し、2011年の『第62回NHK紅白歌合戦』には、AKB48グループとして出演した経歴も持つ。

 また、昨年には、48グループのメンバーであった女性たちを取材した『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)も出版し、大きな反響を呼んだ(参照記事)。

 今回の作品は、「実話をもとにしたフィクション」ということだが、著者が実際に経験し、感じたことを中心に書かれていることは間違いないだろう。

 アイドルを辞めた後、彼女は一般企業に就職し、働き始める。アイドルをしていたほどのルックスを持ち、バリバリと仕事をして、男性たちとの食事などにも積極的に顔を出す。すべてが順調に進んでいるかに思われたある日、彼女は会社に行くことができなくなってしまう。精神的なものが原因で、病院に通い、会社も辞めることとなる。この時点で、「人生に詰んで」しまったわけだ。

 正直、会社に勤めていた頃、朝起きられずに会社に行けなくなったことは、私にも経験がある。人によるとは思うが、自分ではその原因がさっぱりわからず、何かが終わったような気持ちに苛まれたものだ。

 多分、彼女の場合も、何かひとつが原因というわけではなく、本当にいろいろなことが重なって、そんな症状になってしまったのだと思う。そして、そこから抜け出す手段は、なかなか見つからないものなのだ。

 そんな彼女に、姉が勧めてきたのが、56歳の男性、通称「ササポン」と暮らすことだった。

 住むのは、ササポンの自宅の一室。他に同居人はおらず二人っきりだ。

 多分、このことについて、著者は「恋人でも夫でもない男性と一緒の家に住むなんて信じられない」という言葉を、数限りなく投げかけられてきただろう。

 そんな疑問を持ちたくなる気持ちもわからなくはない。ただ、私の場合、その気持ちは、普通の人とはちょっと違うのだ。

 私は一人っ子として育った。そして、元々そういう資質があったのか、成長するにつれオタクになった。全てとは言わないが、オタク多くは自分の世界に閉じこもりがちだ。特に、私は意見の合わない人が苦手だった。人との争いも嫌いだし、変な空気にも耐えられない。私はどんな寂しさが来ようとも、一人で生きるほうが楽だと思うようになった。

 そんな私の対人関係の苦手っぷりはかなりの重症で、結婚して好きな女の人と一緒に暮らすことですら絶対できないなと思うほどだ。だから、私に言わせれば、「人と一緒に住む」ことが信じられないのであって、それが“仲のいいカップル”であろうが、“赤の他人のおっさん”であろうが、「信じられない」ということでいえば、全く同じなのである。

 だから、私の書くレビューは、一般の人と少し感覚が違っているかもしれないということを念頭においていただきたい。

 この本の中で、まず考えたいのは「ササポン」についてである。

 56歳で、人を住まわせるほどの広さの一戸建てに住み、ピアノを持っていて、軽井沢には別荘まである。「いろいろあって」今は一人で住んでいるようだが、かつては結婚していたこともあったし、離婚後は、大木氏の姉も含め、何人かとルームシェアするという形で同居していたのだ。

 私はササポンよりもちょっと下の世代ではあるが、まあ、年齢的な感覚は近いだろう。だから、この本を読むと、主人公よりは、ササポン側の視点で考えてしまう。

 先にも書いたように、自分が若い女性と一緒の家に暮らすというのは考えられない。私には、女性に対してコンプレックスのようなものがあるのだ。年齢差があろうがなかろうが、同じ家の中に女性がいるというだけで、気疲れしてしまいそうだ。

 だが「ササポン」は平然とそれをやってのける。特に無理している風情もない。ちょっと嫉妬したくなる。もちろんこれも「若い女の子と住んでいること」への嫉妬ではない。「若い女の子と一緒にいても、平常心でいられるところ」が憎いのだ。

 そんな思いもあって、ササポンにとって、主人公はどんな存在なのかと考えながら、本を読み返してみた。そんな時、飼っているメス猫がやたらとじゃましに来た。その時ふと思ったのだ。

 「そうか、猫か」

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