パチマネーのおかげか、アクションとしては見応えアリだけど……

『HUMAN LOST 人間失格』が全然『人間失格』ではない件 なおSFアクションとしては普通に高クオリティー

■『HUMAN LOST 人間失格』、全然『人間失格』じゃない件

『HUMAN LOST 人間失格』は、『人間失格』を原案としています。原作ではありません。『人間失格』はどうしたってSFアクションには成り得ませんから、原作との違いを気にする必要はないと、観賞前は考えていました。

 しかし、観賞後は、原案としてタイトルに『人間失格』と入れるぐらいなのですから、思想というか、取り扱うテーマの一つぐらいは、『HUMAN LOST 人間失格』は『人間失格』から受け継いでいるべきではないかと、思うようになりました。

 それぐらい『HUMAN LOST 人間失格』からは、『人間失格』ティストを感じないのです。

『人間失格』は言うまでもない大有名小説で、太宰治が生前、最後に完成させた小説だけあって、文学研究家の俎上にのぼることも多い作品です。

 作品の解釈、そして作品の醍醐味として挙げられるポイントも多彩ですが、強引に言ってしまえば、誰もが思春期に一度ぐらいは考える「生きるとは何か」「人間とは何か」みたいな思想を、刺激されまくるところが『人間失格』の一番の魅力だと個人的には考えています。

 しかし、『HUMAN LOST 人間失格』では人間個人から人類へと枠を広げてしまったため、『人間失格』から感じとれる、個人の思想・悩みがものの見事に吹き飛んでしまっています。

 また、『人間失格』の葉藏はダメ人間ですが、同時にこれ以上ないというぐらい人間臭い人間でした。しかし、『HUMAN LOST 人間失格』の葉藏は、なぜ、どうして人生に虚しさを感じているかという描写がほとんどないため、ただ物語の装置として存在するだけのように感じました。

 パンフレットを読むと、「“太宰治の『人間失格』をSFエンターテインメントにする”というコンセプトがすでに決まっていた」段階で木﨑監督は参加したと発言していますし、他サイトのインタビューで冲方氏も同様の発言をしています。

 それらのインタビューを読むと、『人間失格』の表面的なところを、SFに落とし込むことが優先的に考えられていて、思想やテーマは二の次であったという印象を受けました。

『人間失格』を読んだことがある人間からすると、『人間失格』のキャラクター名や設定だけが、浮きまくっている上に一人歩きしてしまったように感じると思います。少なくとも自分はそう感じましたし、普通にオリジナルSFだったら良かったのにと思いました。

■高クオリティーはパチマネーのおかげ!?

 なお、冲方氏は先述のインタビューで「『CRAZY JAPANESE MOVIE』を作って、積極的に間違った日本文化を世界に発信しようということは、木崎文智監督や富安さんたちも仰っていました」とも、語っています。

 木崎監督は『アフロサムライ』で、海外から高い評価を受けたクリエーターです。『HUMAN LOST 人間失格』も、海外へ積極的に売り込んでいくのでしょう。作品HPを見ると東京国際映画祭をはじめ、アヌシー国際アニメーション映画祭などでも上映予定となっていますし。

 海外受けを考えたとき、じっとりと一人の人間が苦悩するよりも、派手なアクションを見せた方がいいと考えるのは当然の選択でしょう。しかし、それなら原案は『人間失格』ではなくても良かったのではないでしょうか。これでは『文豪●●レイドッグス』と同レベルです。

 とはいえ、海外や、太宰治に思い入れがない方には受けそうな気もします。それぐらい、演出、ポリゴン・ピクチュアズは頑張っています。しかし、一応文学部卒の人間としてはとてもアレな作品でした。残念です。

 なお、企画・プロデュースに名を連ねているMAGNETという企業、アニメファンの方にはなじみがあまりないと思います。今年7月、パチンコメーカーの京楽産業グループが新設した映像事業を執り行う企業(レーベル)です。

 パチンコ業界誌、遊戯通信の記事によると「新レーベルでは今後、その他の映像作品にも出資を行い、様々な窓口業務の運用やヴァーチャルアーティストによるLIVE事業、さらにグループ傘下のダックスプロダクションにて、アニメ・映画・ゲームの音響制作プロデュースなど、アニメを中心に幅広く事業を展開していくとしている」だそうです。

『HUMAN LOST 人間失格』が妙に高クオリティーなのは、潤沢な資金があったからこそなのでしょう。今回はアレでしたが、今後もじゃぶじゃぶとアニメ業界へ資金を投入していただきたいものです。
(文・馬場ゆうすけ)

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