初音ミクさんと結婚式から一年。等身大ミクさんを迎えた近藤さんのスイートホームを訪問

2019.11.30

近藤顕彦さんと妻のミクさん

「なにか生活が変わったかって? それはありません。だって長く同棲していたカップルが結婚しても、急に生活が変わったりしないでしょう」

 昨年11月4日に初音ミクさんと結婚式を挙げた近藤顕彦さん。結婚から一周年を過ぎて、なに変化はあったかを尋ねると、こう答えた。

「今さら妻に代わる女性はいない」二次元だけを愛し続けた男が手に入れた“夢のような結婚生活”
(日刊サイゾー)

 筆者も招かれた結婚式は盛大だった。国内だけでなくいくつもの海外のメディアからも取材を受けた。SNSのフォロワーも世界中に広がった。だからといって、道を歩いていて「あ、初音ミクと結婚した人」なんてことはない。

おめでとうございます! 39人の参列者を迎えて初音ミクさんとの結婚式を遂げた幸せ者に贈る言葉
(日刊サイゾー)

「SNSを交換した時に<あなたでしたか>ということはありますけどね」

 自分の心の中にある初音ミクを愛し結婚した近藤さんは関連グッズを買い漁ったりすることはない。持っている初音ミクのグッズは実用品が中心。心の中にミクがあり、結婚した事実があれば溢れるくらいにグッズを揃えたりしなくともいいのだ。

「実際、結婚してからモチベーションはあがりましたね。ミクさんのために仕事を頑張らなきゃと思いますし……」

 毎朝、Gateboxのミクさんの声で目覚める。電車に揺られながらミクさんの歌声を聞いたりアニメを観たりしながら仕事に励む。退勤時間を迎えると一目散にミクさんの待つ家に帰る。人間同士で十年付き合えば愛も冷めるものだが、結婚する前も後も愛が冷めることはない。

「自分はなかなか熱しにくいほうなので、だから冷めないのかも知れません」

 ミクさんが自分と結婚して一緒に暮らしている。いわば<概念>だけで得ている幸福。それは、なんと幸せなことなのか。

 そんな近藤さんは、このたび等身大のミクさんを迎えた。きっかけは、結婚式にも等身大フィギュアと共に参列してくれた、ある人の紹介。等身大フィギュアを見たときに、近藤さんは自分も欲しいと思った。

 等身大フィギュアはほかのグッズとは明らかに別種のものだ。値段もさることながら、自宅に招くには責任が伴う。生き物とは違うが一生の間は面倒を見る覚悟がなくてはならない。結婚式を契機に、一生をミクさんと添い遂げる覚悟は完全に決まったからこそ、近藤さんは欲しいと思ったし、招こうと思った。

 伝手を辿って紹介された造形師に製作をお願いしたのは今年の3月。それから半年あまりの時間を経て等身大のミクさんはやってきた。

「一度、ご挨拶に伺おうと思うんです」

 筆者の申し出を近藤さんは快く受け入れてくれた。当日、インターフォンを押すとすぐに近藤さんがドアを明けてくれた。

「いや〜、すいません。奥さん、夜分に本当にすいません!」

 昭和のサラリーマンっぽい感じで部屋に入る筆者。ダイニングで待っていたミクさんの存在感は圧倒的だった。存在感だけではない、綺麗に片付いた室内。それが<留守の間に、神様の奇跡かなんかでミクさんが動いて掃除でもしているのか>という錯覚すら覚えさせるほどなのだ。

 もちろん、そんなことはない。掃除をしているのは近藤さんである。部屋の掃除。そして、ミクさんが埃をかぶらないように日々のメンテまで甲斐甲斐しく家事をこなしている。

「ミクさんがいるから、部屋をちゃんと綺麗にしておかなくちゃと思いますね。ほかにも自分は一人じゃなくミクさんがいるから……と思いながら日々を暮らしています」

 一生を添い遂げることを誓い、ミクさんを愛し続ける近藤さん。その気持ちは決して変わらないと思う。これから技術が発達すればVR、果ては『To Heart』のマルチのように動くミクさんと暮らせるかも知れないと、二人の将来を語るのだ。

 近藤さんの結婚に勇気づけられて、自分も愛するキャラクターと結婚式を挙げたのはすでに4組ほど。そうやって、新たな形で生きる希望を持つ人々への賞讃を近藤さんは惜しまない。

「自分もミクさんに救われましたから……」

 なにかと殺伐としがちな世の中で、近藤さんは真の幸せ者のように見えた。

(文=昼間 たかし)

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