映画『i-新聞記者ドキュメント-』森友、加計学園から辺野古基地移設まで? 望月衣塑子 × 森達也が、同調圧力や忖度の正体に迫る!

 佐村河内守や新垣隆のスクリーンから受けるイメージが、佐藤慶や戸浦六宏の陰鬱さや怪しさを多分に含んだキャラクターだったとするならば、本作のヒロインとも呼べる望月衣塑子からは、しなやかで美しく、それでいて芯の強い、『戦メリ』のデヴィッド・ボウイにも似た風情を感じとってしまった。

 大島が少年時代に体験した、第二次世界大戦の悲惨な傷跡や、学生運動を通して実感した反戦への誓いを、作品に昇華させて世界へと発信する際、映画や演劇の世界で実績を積んだプロの俳優よりも、時代を左右するほどのパワーを秘めた、ロック、テクノ、お笑いといった突出したジャンルから見事に飛躍したアーティストたちを、敢えて軍人役にキャスティングして、数多の若者たちに戦場の酷さや滑稽さを訴えたかったのではないかと推測する。

 そして、森も同じような動機から、望月衣塑子という同時代的なヒロインを得て、「この国ではジャーナリズムが機能していない」という危機感を共有し、ドキュメンタリー映画の制作に賭けた心情は、限りなく大島に近い感覚なのだろう。

『i-新聞記者ドキュメント-』 に登場する生身のヒロインは、いつも美しいメーキャップとオシャレな装いのまま、タクシーに乗って取材先を目指す。緊急時ともなれば、社会部との通話は最新装備で対応(端末を手に持たない)、その状態で歩行しては所構わず感情を発露させている。

 そして、望月衣塑子という同時代的な名前を最大限に活用し、社会部のデスク要員と密に連携するスタイルで、日々の慌ただしい取材を消化していく。時には訪問先のアポイントメントや遠方取材の段取りまで、鉄壁のフォローで取材活動を後押しして、高額な報酬を支払う東京新聞。ジェームズ・ボンドは実在しているのではないかという錯覚に陥ってしまうような、リアリティーとカッコよさなのだ。

 逆に、筆者が関係するフリーランスの実例を挙げると、バーゲンで洋服をまとめ買いしては何年も着回し、移動は一番交通費の安いルートを検索するか、もしくはチャリ……。見栄を張り、持っていないと拙いと感じるOA機器などは、PCマニアの後輩に頼んで秋葉原で中古品を捜してもらう……。

 フリーランスの宿命で、放送局の孫請けやら、出版社からの面倒な依頼の際は、番組名や媒体名を執拗に連呼する……。時間が切迫した際は、同業者を頼ると不利な交換条件を出されるので、一呼吸おいてグーグルと交信。未払いや請求無視が度重なって今では人間不信……。

 同等のモチベーションで取材現場へと邁進しているはずなのに、昨今では会社員とフリーランスの収入格差が相当にシビアな問題となっている。

 そんなことを漠然と考えつつも、筆者が最も注視する登場人物について記したい。

 劇中、その人物は無精髭が伸びたままの状態で、いつも大きなリュックサックを背負っている。華やかでファッショナブルな女性記者の傍らで、時々スクリーンに映り込むこの無精髭の男性は、どこか場違いな雰囲気を身にまとっていた。

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(C) 2019「i-新聞記者ドキュメント-」製作委員会

 官邸前の公道で意味不明な停止を警官から強要されたり、独自のネットワークを駆使して撮影を決行しようとするのだが、閉塞状況に風穴を空けることはできない。

 女性記者が執拗に訴え続ける、現政権への問題意識が顕在化していく渦中で、どこか運の悪さばかりが目立ってしまう。その後も、無精髭の男性の承認欲求はどうにも満たされないまま、無残なエンディングへと向かってしまうのだった。

 しかし、そのような不運の連続を映像というフィルターを通して体感する時、いったいどのような化学反応が起きるのだろうか? 読者のみなさんには、本作の後半部分を注意深く鑑賞して頂きたい。

 骨太なドキュメンタリー作品を細腕でグイグイと引っ張ってきたはずの女性記者の取材活動に、中盤以降は何故か既視感を覚えてしまい、どことなく凡庸な女性に見えてしまうことが多かったのは、筆者一人だけなのだろうのか?

 結果的に、『テロルの決算』や『タクシードライバー』、または『ジョーカー』に象徴されるような、活劇的カタルシスは終ぞ訪れなかった……。

 ところが、本作のラストシーンは、絶妙な劇伴と大胆な編集を得て、時代や国家を超越する飛躍的なエピソードへと突入する。

 そんな意欲的なシーンの中で、ヒロインの引き立て役のような存在でしかなかった無精髭の男性が、突如として風貌、生業、性差、貧富、宗教、民族、肌の色への謂れなき偏見に逆行し、全人類共存への堂々たるメッセージを放つのだ。

 その、大胆で豊穣な表現力に筆者は一瞬で魅了されてしまった。この大団円で見せる不屈の反骨精神こそが、年季の入った表現者ならではの深い味わいとなり、本作の主演が誰なのかを知らしめるに相応しい、秘めたるパワーを発揮するのだ。

 ラストシーンの、胸を突き動かされるようなモノローグが、無精髭の男性の本心なのだと気づかされた時、その感動から涙があふれ出てくるのだった……。

 筆者は敢えて、この作品の主演俳優の名を記さない。

(構成=昼間たかし事務所/取材・執筆=増田俊樹)

『i-新聞記者ドキュメント-』
11月15日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開

企画・製作:河村光康
エクゼクティヴ・プロデューサー:河村光康
監督:森達也
出演:望月衣塑子
制作・配給:スターサンズ

http://www.i-shimbunkisha.jp/sp/

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