映画『i-新聞記者ドキュメント-』森友、加計学園から辺野古基地移設まで? 望月衣塑子 × 森達也が、同調圧力や忖度の正体に迫る!

 森のあっけらかんとした告白に、相応のショックを受けたのは確かだったが、それとは別にある想いが筆者の脳裏をかすめていった。そして、森を見据えながら意を決して、「森さんは俳優業がスタートですから。その部分だけは譲れませんよね」と伝えた。

 一瞬、はにかんだような表情を浮かべた森だったが、なぜ主演俳優の表現力に固執するのかを、具体的な例を挙げて熱心に語ってくれた。

 森のドキュメンタリー映画に登場した数多くの人間たちに触れてきた筆者は、 『A』における荒木浩の苦悩や、『A2』の地域住民たちの憤怒と緩み、『FAKE』では佐村河内守とその妻、そして佐村河内と対立する新垣隆が織りなす奇妙な人間模様を、即興で演出してしまう手腕を高く評価しているだけに、森が主演俳優に求める表現力が、表層的な演技を指す言葉ではないことは容易に想像できてしまう。

 若き日の森は、俳優として劇映画や舞台演劇に出演しつつ、職業を転々とした後、ドキュメンタリー番組のディレクターとして頭角を現してきた人物だった。

 当然、そんな過去の自分と重なり合うであろう被写体に様々な感情を投影しつつ、その背景を冷徹に見据える演出家であることは今や周知の事実である。

 かつて筆者も俳優業では食べていけず、ロフトプロジェクトの映像部門で制作を担当し、仕事仲間と設立した映像制作会社では企画から演出、配給から宣伝までの業務を日々、手探りで実践していった。そんな、慌ただしい日常の合間を縫うようにして俳優を続けてきた身としては、森の心情が痛いほど理解できるのだ。

 森と意気投合した筆者は流れに身を任せ、二次会へと参加した。途中、『あいちトリエンナーレ2019 表現の不自由展・その後』を巡る取材で駆けずり回っていたルポライターの昼間たかしから、「どうしても特集記事に森さんのコメントが必要なので、直ぐに伺います」との連絡があり、二次会で森の取材が始まった。

 一連の騒動に対してシャープな分析を加えつつ、どこか奔放な発言が飛び出したりもして、森の褌で相撲を取る昼間も満足そうな様子だった。

 取材後、意外なことに昼間の著作『コミックばかり読まないで』の話題に移り、森はその書籍タイトルや、取材内容を手放しで褒めてくれたのだ。タイトルを命名した筆者と、著者の昼間が感極まった状態のまま、その晩は森と表現の自由について遅くまで語り明かした。

 別れ際、改めて森に近況を伺ったところ、「秋に新作ドキュメンタリーのマスコミ試写があるので、その頃になったら試写状を発送します」と約束をしてくれたのだった。

 10月15日の夜、 新宿歌舞伎町の「ROCK CAFE LOFT is your room」で開催された、『音楽航路Vol.3 ~ 森達也監督と蓮池透さんと一緒にニールヤングを語る』の出演者として来店する森を、筆者はタピオカミルクティーを飲みながら、客席の片隅で待っていた。

 しばらくして現れた森に、約束通り『i-新聞記者ドキュメント-』のマスコミ試写状を送って頂いたお礼を述べ、開演前の楽屋で雑談に応じたのだが、その時点で最も重要なラストシーンの編集がまだ終わってないことを告げられた。

 イベントは盛況のうちに終了したが、打ち上げの席に座る間もなく、森は急ぎ足で編集スタジオへと駆け戻っていった。

 その晩は、出番を終えたロフトプロジェクト社長の加藤梅造が、店で飲んでいた筆者と昼間を歌舞伎町へと誘い出し、森達也作品の影響力について夜遅くまで語ってくれたのだった。

 このような過程を経て、筆者は113分にも及ぶ『i-新聞記者ドキュメント-』の完成作を、10月24日のマスコミ試写初日に鑑賞した。

 ところが、100分を過ぎた辺りからうるうるとし、不覚にもラストシーンの、とある人物が語りかけるナレーションを聴いた途端に涙があふれてしまった。試写室に明かりが灯ると、周辺のマスコミ関係者からは賞賛と同時に険しい表情が見て取れた。

 近くの座席にいた昼間が憮然とした表情で近寄ってきて、語気を強めたアジテーションを耳元で連呼したが、ハンカチで涙を拭う筆者を一目見て、話しかける相手を間違えてしまったというようなバツの悪い表情を浮かべ、即座に立ち去ってしまった。

 まさか、本作で涙を流そうとは想定外もいいところで、一呼吸おいて試写室を退出しようと考え、もう一度涙を拭った。

 ロビーに出ると、辺りを見回していた昼間が、「森さんがいない、森さんがいないぞ」と狼狽していた。『A2』『FAKE』のマスコミ試写の際には、参加者一人一人に丁寧に挨拶する森の姿を知っているだけに少々残念だった。

「敵は試写に潜り込んでいる、配給会社も危険な場面に森さんを……」と昼間が呟いた瞬間、
受付カウンターの奥の方で、うつむきかげんにキーボードを叩く森らしき人物を見つけた。

 伏し目がちに筆者を見据えた森は、立ち上がってはくれたものの、「どうも有難う。えっ、なんで泣いてるの?」と訝しんだ。言葉に詰まった筆者は、とりとめもなく「いや、ラストシーンの映像とナレーション、あの演出に涙があふれてしまって……」と伝えるのがやっとだった。昼間がそんなやりとりを眺めつつ、透かさず写真に収めてくれた。

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 今作はメディアに対して問題提起をする作品であって、決して人々の涙を誘うような映画ではないはずだと森は語ったが、その眼差しは、想定外の感想に涙で潤んでいるようにも感じられた。

 かつて、森のドキュメンタリー映画の主要人物たちは、ある事件をきっかけとしてマスコミから一斉にバッシングを浴びせられたり、負のレッテルを貼られたまま人々の記憶から消し去られてしまった者たちばかりだった。

 そんな者たちが森の取材動機に共鳴し、対話の過程でメディアには決して見せなかったであろう素顔や本音を吐露するシーンが、映画的には最大の見せ場になっていたはずだ。

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