武蔵小杉のこれからを予見? J・G・バラードの『ハイ・ライズ』が描いたタワーマンションの末路

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『ハイ・ライズ』(創元SF文庫)

 上下の階層で排泄物を巡って争いも勃発? もはや、真偽不明の情報が飛び交い、メディアの取材が殺到している武蔵小杉。

「まだ数は少ないですが、投資目的の物件所有者は売り逃げに走るでしょうね。もともと、このあたりはあんまりガラのいい土地じゃないのにタワマンが急増して昔をなかったことにしようとしてたわけですけど、やっぱり無理でしたね」(古くからの地元民)

 そんな武蔵小杉の悲劇を受けて、注目を集めている作品がある。J・G・バラードの小説『ハイ・ライズ』である。『結晶世界』などの破滅三部作や、スピルバーグによって映画化された『太陽の帝国』などで知られるバラードの『ハイ・ライズ』は1975年の作品だ。

 舞台となるのは、ロンドン中心部にある40階建てのタワーマンション。上層と下層との間に微妙な階級社会が形成されつつあったところに発生した停電事件。それをきっかけに、上層と下層の住民の対立は激化。

 瞬く間にタワマンは荒廃し、附属するスーパーでは略奪が発生。セックスと暴力が支配するとんでもない世界になってしまう。マンションの外は平穏な世界だというのに、なぜかマンションの内部だけで世界が閉じてしまった感覚になった人々は弱肉強食の争い繰り広げるのが、この作品のポイントである。

 今回の武蔵小杉の騒動も台風をきっかけに、それまで表向きは「そんなものは存在しない」ということになっていた上層民と下層民の対立が露骨になったもの。ちょっとしたことで、そんな人間本性が露呈することを、バラードは1970年代に早くも予見していたのである。

 この作品、邦訳は創元SF文庫で刊行されており、映画版は各種配信サービスで鑑賞することもできる。

 もはや、今後は荒廃するしかなさそうな武蔵小杉のタワマン。どんなバイオレンスな世界へと変貌するのか?
(文=大居 候)

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