華山みおの物語探索 その76

『ホテル・ムンバイ』瞬時に観客を取り込む恐怖と緊張の臨場感…不意なテロリズムと直面した時あなたはどう行動するか?

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映画『ホテル・ムンバイ』公式サイト – GAGAより

 今回はアンソニー・マラス監督の映画『ホテル・ムンバイ』をレビューします。

 身重の妻と小さい娘がいるアルジュン(デヴ・パテル)は、インド・ムンバイの五つ星ホテル、タージマハルで、厳しいオベロイ料理長(アヌパム・カー)のもと給仕として働いていた。2008年11月26日、ホテルには生後間もない娘とシッターを同伴したアメリカ人建築家デヴィッド(アーミー・ハマー)や、ロシア人実業家のワシリー(ジェイソン・アイザックス)らが宿泊していた。

 2008年のインドで起こったムンバイ同時多発テロ事件の実話を基にした物語。皆さんはこの事件、知っていましたか。私は恥ずかしながら知らなかったです。当時リアルタイムで報道を見た方も知らなかった方も、当時どんな惨劇が行われ、どんな恐怖を人々が負い、また実行犯は何故そのような行動を取ってしまったのか……。
 
 冒頭、ボートからタクシーに乗り込み各地に散っていく実行犯たちの姿から始まります。それぞれがムンバイの駅、繁華街、ホテルに向かいそこで殺戮を繰り返すためです。無線機で何者かと通信を行い指示を仰ぐぎながら、神への忠誠を高らかに宣言しながらそこで生活をする人たちに向かって銃を向けます。

 五つ星ホテルに集うのは、生活する上で何も不安もないような上流階級の人々。そこに突然訪れる恐怖の銃乱射テロ。ホテル側が、他の場所で起きたテロから逃げてきた人たちを受け入れた際に犯人たちも紛れ込んでいたのです。

 かくして最高級のおもてなしを受けられるホテルは、あっという間に地獄絵図と化してしまいます。

 何も状況がわからないままに撃ち殺されていく様子、部屋のドアを開けられ撃ち殺されていく様子、一つ一つの扉を執拗にあけて追い詰めていく様子。どこに逃げたらいいのかがわからず、どこから犯人が現れるかわからず、状況がわからず、ただただ恐怖だけが蔓延していく空気感が、映画が始まってすぐに私たち観客にも強いられます。
 
 ホテルに残されたメンバーで特にピックアップされるメンバーは3人。ホテルマンのアルジュン、裕福なアメリカ人デヴィット、その妻ザーラ。

 アルジュンは犯人の一味と同人種に見られるようにターバンを巻きひげを蓄えた姿をしている。 知らないことが事件の二次被害を起こすように、彼のそのいでたちが身を挺して守る客の一人に、恐怖感を与えてしまうシーンが描かれます。

 彼はシーク教の教徒であり、ターバンはパグリーと呼ばれ勇気と高貴さの象徴であり彼はそれに誇りをもって身に着けていると、その客に真摯に説明します。

 それを知った上でもなおパグリーを外せというならそうする、と伝えるとその客は納得し、彼に謝罪し自分の恐怖から出た言葉を恥じ入ります。

 知らないことは罪であり、恐怖からさらに誰かを糾弾してしまう気持ちも痛いほどにわかります。だからこそ、アルジュンのこの行動はとても素晴らしいものでした。誤解をとくためには心からそれを理解してもらうために言葉を尽くす必要があります。

 知らないことで起こる悲劇が確かにある。それはこの犯人たちにも言えることです。彼らは首謀者にそそのかされてこのテロを行っています。

「お金をもらえる」
「家族が助けられる」
「自分たちの貧困の状況を作ったやつらを許すな」
「それが神の思し召しだ」

 まだ十代の、ろくに教育を受けられなかった子供たち。彼らは世間を知りません。最低限度の教養すらないのです。自分が信じた人たちの言葉を鵜呑みにし、自分が行っていることが正しいことだと言われ続け、それに疑問を持つこともないのです。

 犯人の一人が、一瞬それに気づくような場面があるも、全ては後の祭り。もう突き進むしか道はなかったのです。

 この物語の中で、逃げ惑う被害者たちの中には映画に出てくるような武道の達人もいなければ頭が切れて彼らと交渉する人も、脱出作戦を企てたり派手なパフォーマンスをする人は一人も出てきません。全員がただの一般人で、旅人であり、休暇を楽しみにきた客であり、職務を全うしようとするホテルマンでした。

 彼らが勇気を出し、団結したり、恐怖と戦いながら家族を守ろうと一歩を踏み出したり、お客様を第一に考えるホテルマンらしく行動したりするその様子に強く心を打たれました。

 冒頭からすっかりこの映画の中に自分もいるような感覚になってしまう中、果たして自分はこの場にいてどんな行動をとることができるのか。本当に彼らの恐怖を思うと、どの行動にもうなずく以外のことができません。生きてそこにいてくれるだけで、大きな勇気を要する場所だったはずだから。

 長い時間がたってから、軍隊の突入により自体が収束し事件は終了しました。戦いの舞台となったホテルは改修工事をへて早い段階でレストランから再開したとのこと。料理長が本当にかっこよかったです。こんな上司に憧れます。

 ホテル内にいた方の9割が生存して、死亡した被害者の多くが従業員だったというこのテロ事件。頭が下がるばかりです。

 この事件も流れはあったものの、まさかこんなことが起こるなんて想像もしていなかった出来事。事前に防ぐことはできなかったのかもしれないけれど、テロが起こる理由や戦争が起こってしまう根本的なところからどうにかならなのですかね……。

 この映画を観ることで、一人一人がこの凄惨さを知り暴力やテロ、ひいては戦争の悲しさ恐ろしさを知り抑止になってくれればいいなと願います。また知らなかったことを知ることで、生まれることがあるとも強く思ったので遠い国の過去の出来事だと他人事にしないでいたいと思いました。

 ぜひ劇場で見て、感じてきてほしいです。
(文=華山みお)

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