シリーズ最新作『牙狼 GARO -月虹ノ旅人-』公開。雨宮慶太監督が語る、己と渡邊亮徳・植村伴次郎の運命の交わり

『牙狼〈GARO〉』のCGは最初のテレビシリーズ以来、一貫して東北新社のグループ企業であるオムニバス・ジャパンが担当している。というのも『牙狼〈GARO〉』の企画の発端が東北新社の創業者である植村伴次郎が、優秀な人材と設備を持つオムニバス・ジャパンの顔となる作品を求めたからだ。

 そうした状況へ雨宮監督を導いたのが、渡邊だった。

「亮徳さんには、ずっと東映でお世話になっていたんですが、新社にデスクを置いた時に<植村が会いたがっているから、ちょっと来てくれ>と。それで何度か昼食を取りながら雑談が企画をやろうという話になっていったんです」

 渡邊が雨宮監督を急に呼び出すのは、これが初めてではなかった。1991年に放送あれた『鳥人戦隊ジェットマン』の時もそうだった。

「その時も、急に呼び出されていってみたら<来年のスーパー戦隊シリーズの監督をやれ>というんです。自分はスーパー戦隊シリーズはほとんどみたことなかったのに、その場で即決です。わりと、いつもそういう感じでした。だから伴次郎さんとも波長が合うと思ったんでしょうね」

 才能を繋ぎ座組をつくる渡邊の直感は図に当たっていた。テレビシリーズの一話と二話が完成しオムニバス・ジャパン、赤坂ビデオセンターの地下にあるソフィア試写室で関係者試写が行われた。上映が終わり、灯りのついた試写室で、満足そうにニコニコしている植村に雨宮監督は声をかけた。

「もう一回、観ますか?」
「うん」

 冗談のつもりだったのだが、もう一度上映が始まった。

 もちろん、そんな作品を生み出すために渡邊は容赦がなかった。雨宮は「最初の牙狼のデザインはもう描けない」という。どういうことかと聞いてみると、最初に描いたデザイン画の後はすべて紋様など、どこかを省略したものしか描いていないのだという。

「とにかく、ぼくが二度と描きたくないというデザインにしないとインパクトがないと、亮徳さんはいってたんです」

 いくつかの資料には、デザインが決まるまで100あまりの没になったデザインがあるとも記されている。

「100というと語弊がありますけど……『牙狼〈GARO〉』の企画が固まる前を含めると3年かかっています。亮徳さんは美術品も好きでワンオフにこだわる人でした。<ほかで没になったものを持ってくるな。常に最上級で勝負しろ>といわれてました。そこまでいわれていたのは、幸せですよね」

シリーズ最新作『牙狼 GARO -月虹ノ旅人-』公開。雨宮慶太監督が語る、己と渡邊亮徳・植村伴次郎の運命の交わりの画像2
(C)2019「月虹ノ旅人」雨宮慶太/東北新社

 常に最上級のもので勝負をすることに情熱を注ぐため渡邊は、スポンサーにも容赦がなかった。グッズを制作するバンダイのデザイナーにも幾度もリテイクを出していた。バンダイは製作委員会に出資するスポンサー。凡庸なプロデューサーであれば気を遣い言葉を選びながら修正をお願いするところだが、渡邊はそんなことはしなかった。スポンサー筋のデザイナーをも文字取り「けちょんけちょん」にして、直しを出させるのだ。

 雨宮監督がそこに感じたのは、恐れではなくシンパシーだった。

「純粋で子供がかっこいいと痺れるようなものにしたいとか、いっていることは割と正論だったんです。そうなればデザイナーでも誰でも、それに答えようと思うわけですよ。ほかが追いつけない、一番のすごいものをつくろう、とね」

 ふと気になるのは、そんな情熱に満ちた人物に雨宮監督が見いだされた理由だ。8月で60歳を迎えた今、なにか体験から導き出されるなにか教訓めいたものがあるのではないか。それを尋ねると、いくつかの自分は運が良かったというエピソードの後を語ってから、少し考えながら口を開いた。

「自分の仕事がすべてデキがよい、売れましたということがないんです。完成してからデキが悪いなと思うものもありました。でも、誇れることはひとつだけあるんです。自分が関わってきた作品で一本も手を抜いたことはありません。時には空回りや思い込みもあって、観客が観たいものとは違っていることもあったけど……それでも<これでいいや>はではなく<今日できるのは、ここまでなのか>そう思ってやってきたんです」

 なにがしか創作に携わると、時間や技術、予算の制約の中で人は易きに流れがちだ。そこに一歩踏みとどまる雨宮監督の粘り。それが、誰もやっていないものを生み出すことに人生を全振りしてきた渡邊や植村の精神性と合致したのだろうか。

 今年5月20日。渡邊亮徳は89歳で世を去った。メディアの訃報は決して大きくはなかった。だが、その血脈は確実に受け継がれている。『スーパー戦隊』シリーズも『仮面ライダー』シリーズもいまだに現役の作品群だ。

 そして『牙狼〈GARO〉』。それは情熱に満ちたプロデューサーが、無二の作り手を得て開花した、もっとも評価されるべきシリーズといえるだろう。でも、それを集大成とかライフワークなんて言葉でくくることはできない。プロデューサーも監督も、生命がある限り作品を作り続ける存在だと思うからだ。永続するからこそ、瞬間に全力が注がれる。『牙狼 GARO -月虹ノ旅人-』は、2019年のこの瞬間のすべてが注がれた作品だと思っている。

 映画紹介を、このような形でまとめたくなったのは理由がある。筆者が昨年ある取材でアニメーション製作会社をたずねた際、ある人物からこんなことをいわれた。

「渡邊亮徳が、まだ企画を持ってくるんだよ」

 取材の合間に、雨宮監督にそのことを話すと、こう呟いた。

「ああ、巨大ロボットもの……」

 いつまでも最高の作品を作り続けたいという狂奔。それは『牙狼 GARO -月虹ノ旅人-』の中にも垣間見えていると、改めて思ったのだった。
(文=昼間 たかし)

■『牙狼<GARO>―月虹ノ旅人―』
10月4日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー中

【出演】
中山麻聖、石橋菜津美、水石亜飛夢、螢雪次朗
松田悟志 渡辺裕之 / 小西遼生 京本政樹(特別友情出演)
【原作・脚本・監督】雨宮慶太
【アクション監督】横山誠
【製作・配給】東北新社
2019年/日本/カラー/106分/16:9/5.1ch

(C)2019「月虹ノ旅人」雨宮慶太/東北新社

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