『ホームステイ ボクと僕の100日間』人生観の違いに驚く映画 監督やヒロインも体現する人生の複雑さ

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 きっとアイドル映画なのだろう。そんな予断で始まった映画には度肝を抜かれるはずだ。実際、筆者もそうであった。

『ホームステイ ボクと僕の100日間』。製作国のタイでは国民的な人気を誇るアイドルグループ「BNK48」で総選挙一位になったチャープラン・アーリークンがヒロインとしてクレジットされている。

 だから、きっとアイドル映画なのだろうと思ったら、完全に裏切られたのである。

 この映画は日本でも2000年に映画化されたことのある森絵都の小説『カラフル』を原作とする作品。この小説は1998年に児童書の老舗として知られていた理論社から刊行され、当時も話題になった作品だ。ジャンルで分類するならば「青春ファンタジー」。だから、インタビューの時にパークプム・ウォンプム監督はこの映画を「青春ファンタジー」だといった。

 けれども日本人の考える「青春ファンタジー」とは赴きが違う。『カラフル』はもはや20年近く前の作品で記憶も曖昧なのだが、はたしてこんなテイストだったか……。

 そう「青春」という言葉で片付けるには作品があまりにも重いのだ。

 物語は「管理人」によって現世に甦った魂が、自殺した少年・ミンの身体に「ホームステイ」して100日の期限の間にミンが自殺した原因を探り出すよう命じられるというもの。

 その過程で徐々に描かれていく家族や友人の姿。それは「あまりにもリアリズム過ぎるのも考えものだ」と呟きたくなるくらいに重い。筆者はタイというところにはいったことないが、友人知人のタイ人を思い浮かべると日本人に比べて明るい国民性なのだと思っていた。でも、ここに描かれる人物たちにリアリティがあるとするならば、それは一面的なものだと考え直さなきゃならぬシロモノだ。

 真っ白な状態からミンになった魂と観客が一緒に知っていく家族は崩壊気味。父親は大学教授の職をやめてサプリメントのセールスマンをやってる。でも、仕事もあまり上手くいっていない。離れて暮らす技術者の母親は、
不倫の真っ最中どころか相手の男の娘とも馴染んで別の家庭をつくっている状態。ついでに、兄との関係も最悪だ。

 あまり書くとネタバレになるので言葉を選ぶが、恋人関係にあるチャープラン演じる特待生クラスの上級生であるパイもまた、単なる優等生ではない。名誉を得るためなら身体を使うのも厭わない上昇志向を持っている。……正直なところ、アイドルのそんな役をはめこむあたりにタイ映画の凄みがある。

 そんなドロドロで辛い人間模様が描かれる2時間あまりの上映時間。明確なオチのようなものがあるかと思えば、ない。あるとすればミンの身体にホームステイした魂の変容があるだけだ。愛欲まみれの母親にも上昇志向のヒロインにも救いもなければ、バチもあたらない。

 映画は、アイドル映画かと思ったらまったくそうではない驚きにはじまり、その人生観に改めて驚いたまま幕を閉じるのだ。

 試写の後、監督とチャープランにインタビューの機会を得てまず尋ねたのは、この部分だ。

 パークプムは語る。

「原作の『カラフル』を読んだ時に、カラフルとはどういう意味か考えました。そして、世界は一色ではなくカラフルなのだと考えるに至りました。だから、映画の登場人物には許しや報いのようなものはありません。ただ、主人公が様々な人生を知ることで人生をより理解できるようになったということです」

 いま世界は複雑になったようでより単純になっている。人はなにかと善悪や正義不正義の判断をしがち。なにか事件が起これば、その背景を考えることもなく『犯人』の糾弾に一般人までもが、血道をあげる。そんな時代の日本に生きているからこそ、人生は単純ではないという描写に度肝を抜かれるのか。

「私の人生だって簡単じゃなかったです。目標は遠くに見えていても、そこにたどり着くためには車を運転するのか、船に乗るのか。どちらも最良の選択というものはありません。車はエンストするし、船は沈没することもありますから……」

 そんな人生の複雑さを、ヒロインを演じたチャープランは別の形で体現している。なにせBNK48選抜総選挙第1位でトップアイドルとして躍進する一方で、タイ最難関の国立マヒドン大学を卒業した文字通りの才媛なのだから。

「アイドルというのは、どんなのかと思っていたところに、たまたまオーディションがあったのでチャレンジしたんです。歌も歌えないしダンスもできなかったんですが……」

 実に人生がどう転ぶかわからないことを、彼女は若くして体験で知っている。今もまたもっと勉強したいという意志や、知名度を生かしてインフルエンサーとして発信していきたいなどなど、選択肢には悩むこともある。

 結局、この映画が日本人には驚く人生観を提示しているのは作り手の側もまた、人生の複雑さを垣間見ているからなのか。

 監督、ヒロインともにタイでは抜群の知名度を誇るというが、残念ながら日本ではそうではない。正直、インタビューに際しても資料もなく過去作品を鑑賞することも叶わずという状況であった。

 そうした中で、あえてこの映画を観ようと映画館へと足を運ぶ人たちは人生になにを求めているのか……。

(文=昼間 たかし)

『ホームステイ ボクと僕の100日間』

10/5(土)より新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー!

ティーラドン・スパパンピンヨー、チャープラン・アーリークン
監督・脚本:パークプム・ウォンプム
製作会社:GDH599
配給:ツイン
公式HP:homestay-movie.com/

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