『ヒプマイ』の「キャラ追加」、『おっさんずラブ』の「ドラマ続編」……作品をそっとしておけない公式の思惑とは

■連ドラや映画にはできて、ソシャゲやジャンプの人気連載漫画ではできにくいこと

 私はヒプマイコミカライズで平成最後の年末年始をゲル状で過ごした。そしてもうこれ以上趣味で傷つきたくない、安心してオタ活したい、流行り作品に惹かれてまた同じ轍を踏んだら自分を許せなくなるだろう、といった思いから、「現在進行形の作品でなく、もう完結してて、人気が高い作品」を鑑賞しようと、いろいろ見ていたときに引っかかったのがその時点ですでにドラマ版は終了し、評判も高かった『おっさんずラブ』だった。

 そして『おっさんずラブ』のドラマは評判通り本当によく、ヒプマイショックが大いに癒されたのだ。これは何もヒプマイに限らず多くのソシャゲや週刊少年ジャンプの人気漫画もそうだが「終わることができない」コンテンツが多い中で、連続ドラマである『おっさんずラブ』は7回で実に美しく終わった。

 何の本か忘れたが、小説や映画やドラマなど「終わりのある」物語は終わることで読者、視聴者は物語から何かを得て、それぞれの日常へ戻っていくという旨の記載があり感銘を受けたことがある。私自身、司馬遼太郎の歴史大作『竜馬がゆく』(文春文庫で全8巻もある)を読んでいたときも、最終巻になり左手が支える残りのページがどんどん減っていき、この後、近江屋で竜馬が暗殺されることも切ないのだが、「全8巻竜馬と過ごしてきた時間」がもうすぐ終わってしまうことも切なく感じた。そこまで思えた幸福な読書体験だった。

「いつまでもここにはいられず、いつかはもといる世界に帰らないといけない」というのは切ないが、だから物語は美しいのだと思う。しかし、今は終わらない(終われない)コンテンツの「そこにいつもいる、ある」という価値の方が支持されているように思う。

 支持されているのは提供者側にしてみれば当然「そっちの方が楽に儲かるから」だろうし、一方で、受け取るオタク側にしても「そっちの方が寂しくないから」という事情があるように思える。

 Twitterを「行きつけの店」にしているオタクは多いだろう。行きつけのスナック「青い鳥」で推しを肴に同担とオタトークをしたり、楽しそうに話すほかの同担の様子を眺めたり、時にケンカしたりするのが青い鳥の店内で毎日のように行われる。

 これ自体はオタクの幸福な営みだが、このスナック青い鳥は依存性が高いのが曲者だ。毎日スナックに通ううちに、スナックに行かない生活が想像できなくなっていく。「寂しさ」を埋めるコンテンツは最強だ。

 スナック化するコンテンツは強い。そして、そうなるとやはりコンテンツは終わりにくくなる。「現役で続いているコンテンツであること」、「いつメン」なコンテンツになること、さらに言えば「依存させるコンテンツになること」が今のオタ活と相性が良く、稼げるのだ。

 そのため「新キャラ」「続編」というテコ入れがされるのだろう。いくら面白くたって単発の映画だったり、1クールのアニメならそれは2ヵ月後には忘れられてしまう。もはや「面白さ」より「依存させること」が優先されているようにも感じる。

 コンテンツが終わりにくくなったからこそ、読み切りの漫画や小説や連続ドラマや映画のような「必ず終わるコンテンツ」の美しさをあらためて思う。そしておっさんずラブはドラマ版の終わり方がとても美しかったので、評判が良いと聞く映画も見ないでおいて、心の宝石箱にしまっておこうと思っていたらドラマの続編が出ると聞いて「そうだね、売れてるもんね……、そら、続編出すよね……」と遠い目になっている。

「終われなくなったコンテンツ」の最期は、読者や視聴者が「飽きる」「他に目移りする」になる。多くのオタクの寂しさを埋めるために散り時を失い亡霊になった数多のコンテンツを思うと切ない。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

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