“生涯ドルヲタ”ライターの「アイドル深夜徘徊」vol.38

傷つけ合い、愛し合う少女たちの一瞬のきらめき――映画『左様なら』レビュー

映画『左様なら』公式サイトより

 今から9年ほど前、神聖かまってちゃんの『夕方のピアノ』という曲のMVを見た時、そこに出ていた少女の姿に釘付けになった。

 彼女の名は、祷キララ。当時10歳ぐらいだろうか。「死ねよ佐藤 お前のために」そんな歌詞が流れる映像の中で、刃物を持ったその少女は、狂気を感じるほどに淡々と、おそらくは「誰かを憎むこと、殺すこと」を演じていた。

 そして今年、19歳になった彼女は、現在公開中の映画『左様なら』に主演。その中で、儚く死んでしまう女子高生を演じた。ふたつの作品に共通する「死」という存在。未来ある若い女性の傍らにあるというのに、不思議と違和感はない。端正な顔立ちの彼女からは、生と死のはざまにある一瞬の輝きを感じるからだ。

『左様なら』は、イラストレーターのごめんが、Web上で発表した18ページほどの短編マンガが原作だ。そこに込められた、女の子の迷いや誰かを想う強い気持ち、そんなものを、自身も若い女性である石橋夕帆監督が見事に絡め取り、ひとつの物語に昇華させた。

 祷とともに主役を演じた芋生悠の佇まいもいい。多くの映画やドラマで演技経験があるが、いい意味で少女らしさが抜けていない。クラスの中で孤立しても、自分の気持ちを信じ続ける強さを、由紀という役柄を通してしっかりと表現している。

 公開に先立ったトークイベントも見に行ったのだが、監督はじめ、出演者や関係者の女性陣が、皆この作品に熱い情熱をかけていることが感じられた。

 まさにこの作品は、少女と、かつて少女を経験した女性たちによる、リアルな青春映画なのだ。

 舞台となっているのは、ある海辺の街。教室からも海が見えるし、海岸へもすぐに行ける。同じような環境で育った私としては、近くに海があるというのは、何か懐かしい感じがする。

 高校1年の由紀(芋生)と綾(祷)は学校の同級生。中学も一緒で仲がいい。ある日、綾は、母が再婚した相手の転勤により、引っ越すことを由紀に告げる。「会えなくなるね」そう言う綾の言葉は、意外な形で現実になる。

 翌日、綾が交通事故で死んでしまったのだ。葬式に出席し、泣いているクラスメイトたちの中で、由紀だけは涙を流していなかった。

 解釈はいろいろとできるだろう。ただ、彼女が「泣くのは何か違う」と感じていることは伝わってくる。泣いてしまえば全てが浄化されるような気がするし、事実気持ちが落ち着くのかもしれない。でも、それで心の中に抱えている“何か”が流されてしまうのだとしたら、泣かずにとっておきたいような気もする。

 その後、学校では綾が継父に乱暴されていた果てに自殺したのではないかという噂が立ち始める。そして、そんな噂話をしていた、クラスの「イケている」女子に水をかけたことで、由紀は“ハブられる”ことになるのだ。

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