華山みおの物語探索 その72

『イソップの思うツボ』上田慎一郎監督の新作で注目度は高いものの、『カメ止め』の影がちらついてちょっと損してる?

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映画『イソップの思うツボ』 公式サイトより

 今回は浅沼直也・中泉裕矢・上田慎一郎のトリプル監督による映画『イソップの思うツボ』をレビューします。

“家族”の仲も良く、カメだけが友達の内気な女子大生、亀田美羽。

大人気“タレント家族”の娘で、恋愛体質の女子大生、兎草早織。

“復讐代行屋父娘”として、その日暮らしの生活を送る戌井小柚。

三人の少女が出会う時、最高の奇跡が起こる――。

これは、甘く切ない青春映画・・・・ではない!

騙されるな!!!!!!

誘拐、裏切り、復讐、はがされる化けの皮!

予測不能の騙しあいバトルロワイヤル!

 『カメラを止めるな!』の上田監督の作品ということで、上映前から期待値も高かったこの映画。しかし上田監督からは「あくまでも3監督の作品。カメ止めとは別物」と繰り返しアナウンスしていたのが印象的だった。

 しかし、それとは裏腹に映画館などで流れる予告は『カメラを止めるな!』を意識したように「あなたはまた騙される!!」という何かしらの仕掛けがほどこしてあることを期待させるもの。これはどっちの気持ちでいったらいいのだろう?? そんな気持ちを抱えつつとりあえず観てみるか、と映画館に足を運びました。

 結果としては、もちろん『カメラを止めるな!』ではありません。全く別の映画ですが、二匹目のどじょうもちょっと狙った? と思われてしまうのも仕方ないのかなぁという印象も受けました。というのも、『イソップの思うツボ』には予告であった通り、ある仕掛けが施されています。その仕掛けに導くための伏線が所々に張られているのですが、その伏線の張り方が「いかにも」なのです。

 画面の中に散りばめたヒントの中から探し出すタイプの伏線ではなく、結構丁寧に説明された「THE・伏線」と誰もが気付く張り方なので先の展開を身構えてしまいます。そして三人の監督にちなんで「3」という数字が所々に散りばめれらているのですが、あえてそうする必要はなさそうに思えました。

 正直、三家族の物語にする必要はなかったような。3つ目の家族は、最後のシーンは完全に添え物みたいだったし、とりわけ印象が薄いんです。

 では面白くなかったのか? というと、そんなことはありません。「こういうことやりたいんだ!!」というのが画面の端々から伝わってくるところがこの映画の素敵な部分だと思いました。

 企画だけで撮り切ったような映画は観ていて辛くなることも多いです。しかし、アイデアや意欲にあふれた作品は突っ込みどころが多かったとしても、愛しく感じます。それは観客に伝わる作り手の熱量ではないでしょうか。

 『カメラを止めるな!』の影がちらついてしまう前情報に、誰も彼もが踊らされて、作品自体が楽しめなくなってしまうのはもったいありません。でもあの作品がなかったら、こんなに多くの映画館で上映されることもなかったでしょう。何も知らずに、先入観を持たずにこの映画を観たら……と想像すると、やっぱり私は三家族目には疑問を持つし、あの仮面たちにも疑問を持ちます。

 だけど好きなシーンももちろんあります。オープニングとエンディング、そして作中に絵本のように差し込まれるイラストの使い方は好きでした。キラキラ女子とダサ女子の比較と男性監督が作った! という感じの友達の大学生のダサさもクスリと笑ってしまいます。

 後半の展開は、正直好き嫌い真っ二つに別れるでしょう。私は三家族目の存在のせいで、ごちゃっとした印象があるのが残念だなとは思います。

 『カメラを止めるな!』は大好きな作品です。だけどこれから新しい作品を作り続けていく上田監督にとって、『カメ止め』は踏み台にも足かせにもなるということを知らされた作品だったように感じます。

 浅沼監督、中泉監督へもなかなか目がいかないのも残念なので、また頭を空っぽにして2回目を観たいと思います。なんだかとってももったいないんです。作品じゃないところで。 

 色んなところで同意見を目にしますが、主演の石川瑠華さんは最高でした。隣にいそうな身近さと、スクリーンドアップでもぶれないかわいさが同居していて、つい目で追ってしまう魅力的な女優さんでした。他の作品でも見たいなぁ。

 なんだかんだで『イソップの思うツボ』に、私は色んな意味でまんまとハマってしまったようです。皆さんはどうでしょう。ぜひ映画館で確認してみてください。
(文=華山みお)

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