華山みおの物語探索 その67

『メランコリック』フィクションだけど、やたらリアルに感じる一風変わった銭湯サスペンスに単館映画の魅力が凝縮!

 今回は田中征爾初長編監督作品『メランコリック』をレビューします。


 名門大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・和彦。ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・百合と出会ったのをきっかけに、その銭湯で働くこととなる。 そして和彦は、その銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。そして同僚の松本は殺し屋であることが明らかにな……。
 変幻自在な展開とサプライズ満載のストーリー。日々を憂鬱と感じる全ての人に贈る、巻き込まれ型サスペンス・コメディ!!


 長編第一作目となる新人監督が、いきなり東京国際映画祭監督賞を受賞したということで話題になっていた今作、観に行ってきました!!

 銭湯で殺人が起こるらしいというざっくりした概要だけを頭に入れて観に行ったので、最初は痛かったり怖かったりする映画なのかな、と思っていました。そしたら怖くも痛くもなく、むしろクスリと笑いが漏れる先読みが出来ないじわじわと取り込まれ系の映画でした!!

 私自身も今年になってから自主制作の短編映画を撮る機会が何度かありまして、こういった自主制作的に作られた映画に興味津々。やっぱり【面白い映画】って求心力が全然違うんですよね。

 超有名な役者が出ているわけではなく、ド派手はCGが使われているわけでもなく、凝ったカメラワークや著名な監督が撮っているわけでもない。だけど面白い。それを決めるのはどこか。脚本・監督・編集・役者・スタッフ諸々は全部大事です。だけどそれよりもなによりも作品に賭ける想いの伝導率も、大きいのではないでしょうか。

 自主制作の映画というのは関わっているスタッフの数が、商業映画に比べてだいぶ少ないです。色々な人が色々な仕事を兼任して作っています。だからこそ細部に関わった人間の体温がにじみ出ていて、そこかしこから熱が伝わってくるのです。

 主人公和彦は東大卒の現ニート。この設定は最初からずっと繰り返し提示されるものの、ストーリーに絡んでくるようなことは特にありません。「え、なんでバイトなの?」みたいな聞かれ方をずっとされる程度です。たまたまニートで、家の近所の銭湯にたまたま行って、そしたらたまたま同級生に再会して、たまたま求人があったから銭湯で働くことになって、たまたま死体の解体現場を目撃しちゃって……と偶然なのか運命なのか、引き込まれるように殺し屋の世界に引っ張り込まれる和彦。

 どこにでもありそうな雰囲気を出しながら、どこにもない世界観が広がっていきます。設定としては突飛な部分も多いのですが、なぜかこの映画の中だとそれすらもすんなり受け入れられてしまいます。全て納得がいって物事が進んでいるように見えてしまうのです。

 現在の銭湯は、多くがガスを使ってお湯を沸かすものです。しかし、今回登場した銭湯は窯で薪を燃やすタイプです。銭湯だったら広い浴室があって解体しても血は綺麗に流せるし、遺体を燃やすこともできます。お店が閉店してから次に開けるまでに、これらを済ませてしまえばいい副業になるというわけです。

 このアイデアがまず面白く、リアリティがありました。日本人が誰しも一度は足を踏み入れたことがあるだろう、大衆浴場がまさかそんなことに使われているとは思わないでしょう。自分の日常にもどこかでつながっていそうな場所が、物語の大きなキーとなっている作品は視聴者をその世界観に引き込みやすいのだと思います。

 殺し屋、というのも実際には見たことがないけれど、多分みんなどこかには存在しているのでは、と思っています。でも日本の現状から、実在できない気もしてる。そんなフィクションの中でしか存在できなかった殺し屋という存在を、銭湯という場所を使う事によって自然にあり得る形にしてしまったわけです。

 殺し屋の全員が、眼光鋭く体がバッキバキに鍛え上げられていて黒づくめ、だなんて想像の中だけで、この作品に出てくる松本という殺し屋は、金髪で愛想がよくて、ちょっとばかっぽく見えます。しかし仕事になると眼付が変わり、肝も座る男に変貌します。このギャップ……!

 映画館で購入したパンフレットにも製作者たちの想いがぎっしりと詰まっていて、こちらを読むだけでも大満足。商業映画でもすっかすかのパンフレットが多いなか、本当に充実しています。公開したアップリンクが作っているっぽいですが、こういう取り組みをしている映画館って素敵ですね。愛に溢れた作品に触れると、映画好きとしても嬉しくなるし応援したくなります。

 「殺し」という日常では中々出会わない非日常に、高学歴だけが取り柄の平凡な男が巻き込まれて最後にたどり着いた先は何か。タイトルにある「メランコリック」な状態が慢性的になっていた和彦が、自分は変わらないままに変わっていく状況に巻き込まれメランコリックではいられなくなっていく様と、その先に手に入れた一瞬を見届ける物語。ぜひ劇場で見てください。昨年から続く低予算映画の波にぜひ乗りましょう!
(文=華山みお)

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