『天気の子』の”セカイ”観にエロゲーマー歓喜?「メッセージウィンドウと選択肢が見えた」「クイックセーブのアイコンが見えた」

2019.07.30

※作品内容に若干触れる箇所がございます。あらかじめご了承ください。

 記録的ヒットとなった『君の名は。』の次作として、注目度が必然的に高くなった新海誠監督の『天気の子』。公開11日で興収40億円を突破したことから、順調に客足を伸ばしているようだ。

 しかし、やはり前作の壁を越すことは難しいという声が大きい。というのも、前作の記録があまりにも巨大すぎるということもあるが、一番の要因は『天気の子』の内容である。

 正直、『天気の子』は『君の名は。』ほどポップな作品ではない。王道のボーイミーツガールではあるものの、内容もどちらかというと暗い。作中の描写も7割は雨に覆われた架空の日本であり、内容も暗ければ描写も暗いというわけだ。

「これは、僕と彼女だけが知っている 世界の秘密についての物語だ」

 この世界の秘密が『天気の子』のキーとなるのだが、少年と少女だけが知っている世界の秘密……これはかなり臭う。世界が豹変してしまった理由を知っているの、君と僕だけ。これは臭い……臭いぞ! 

 また、エンディングについて腑に落ちない方が多いらしい。ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか分からないというのだ。確かに、『君の名は。』ほど分かりやすい終わり方をしないのも『天気の子』の特徴だ。パンフレットにはバッドエンドのつもりはない、と明記されていたが、確かに豹変した世界が残されても、素直に喜べない方がいるのは事実だろう。本当にこれはプンプン臭う。

 この臭いの元はズバリ、”セカイ系”。世界の運命をひとりの少女に担わされ、それを主人公である僕が必死に見守り、そして抗う。一時期のライトノベルや美少女ゲームに大量生産され、飽和状態にもなったが、いまでも新たな作品が生み出されているある種のジャンルと言えよう。

 普通に考えれば、主人公とヒロインの周辺だけで世界、ないし地球の運命が決まるなんてことはあってはならない。この地球には何十億という人間が住んでいるのだ。しかし、その存在を無視するかのように、ごくごく狭い世界で運命が決まってしまう。

 この独特な”セカイ観”は、深夜アニメや美少女ゲーム好きな人たちには、極々当たり前に受け入れられるし、平たく言えばよくある設定だ。しかし、オタク慣れしていない人からすれば、そんな非現実的な設定なんて腑に落ちない、と捉えられてもおかしくはない。それなのに、大衆の空気を読まず、超メジャーの舞台でブチかましたのが、『天気の子』である。前作で、それまで新海誠に漂っていたオタク臭を脱臭して大成功を収めたのに、今作ではむしろプンプンさせて帰ってきてしまったのだ。

 事実、『天気の子』は00年代のエロゲーマーたちを歓喜させており、その喜びの声はTwitterをはじめ、SNSにたくさん投稿されている。

 そもそも新海誠監督は、4月に解散したエロゲーブランド・minoriでOPムービーを制作していた過去がある。オタクからすれば、新海誠はエロゲー出身の人だ。そんな彼が純度100%のセカイ系を東宝と川村元気率いるSTORYをバックにつけて描いてみせたのだ。彼がエロゲー業界で活躍していたのは2000頭から半ばくらいだが、エロゲーが最も元気で、メディアミックスが最も盛んだった頃ともいえよう。よってその世代のエロゲーマーが『天気の子』を観たら、「俺たちの新海誠が帰ってきた!」「メッセ―ジウィンドウが見えた!」「クイックセーブ!」「ほかのルートは?」などと騒ぐのは無理もない。

 『君の名は。』以降、一躍スーパーアニメ映画監督となってしまい、大衆化してしまった感のある監督であるが、筆者は『天気の子』を観て、あのころ俺たち感動させてくれた新海誠イズムがまだ死んでいないことを示してくれたと感じた。かつてのminoriは「We always keep minority spirit.」がコンセプトであった。彼の心の中に、まだその精神は強く残っているのだ。

 『天気の子』は現役エロゲーマー、ないしはかつてエロゲーマーだったのであれば、絶対に観たほうが良い。そんなあなたには、きっと選択肢が見える。パッチを当てたら18禁になるんじゃないか、エンディングの先にさらにトゥルーエンドが待っているのではないか、と感じるだろう。

 最後の最後で沈んだ街に向かって紙飛行機を投げ、それが羽に変わり、そこに太陽の光線が走ったら、号泣する観客は多かっただろう。
(文=Leoneko)

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